naturadistill 川内村蒸溜所 – Japanese prideを胸に –

naturadistill 川内村蒸溜所
コラム

深く、穏やかな“Japanese pride”を胸に、その小さな蒸溜所は今まさに世界に挑戦しようとしている。
2024年11月2日、全国的な大雨で軒並みイベントが中止になる中、福島県川内村でオープニングパーティーが開催され、その一歩が踏み出された。

第1回目のコラムでも少し触れたが、私は今、福島とフィリピンの二拠点で暮らしている。そうした生活の中でふと“日本”について、こんなにも素晴らしい場所であったかとしみじみ思うことがある。日本にいる頃は特に意識することもなかった自国の歴史や文化が、海外に暮らすようになったことで、これまでより際立って見えてきたのかもしれない。
特に日本の食とものづくりの繊細さは世界に誇れるものであると、心底思うことが増えた。

昨年の秋、私が福島に軸を置くこととなったきっかけの人物である夫が、福島県の小さな村に蒸溜所を立ち上げた。私には彼の作るものが “日本の誇り” を纏っているように感じられ、そのことが嬉しかった。
今回は、そんな夫である大島草太の新たな取り組み、「naturadistill 川内村蒸溜所」についてご紹介したい。

naturadistill 川内村蒸溜所

蒸留所のオープニングパーティー当日は、福島県内外から100人を超える人が足を運んでくれた。このオープニングパーティーは2023年末に行ったクラウドファンディングの支援者を対象としたものだったこともあり、来訪者の皆さんの熱量と高揚感がひしひしと伝わってくる場となった。

naturadistill 川内村蒸溜所 代表 大島草太

蒸溜所を背に「乾杯!」の音頭をとる夫

多くの人たちに見守られ、応援されてスタートをきった「naturadistill 川内村蒸溜所」。「これから、ここから、世界へ届けていきましょう。乾杯!」と、代表である大島草太の挨拶から、この小さな蒸溜所の本当の第一歩がはじまった。

夫婦という立場上、半分願いのようなものも入っているかもしれないが、彼の言葉は本当に実現すると思っている。この川内村の蒸溜所も日本の価値を変化させる何かになると、この日のオープニングパーティーを見ながら思った。

naturadistill 川内村蒸溜所 オープニング

雨は自然の蒸留水。蒸溜所のオープンにぴったりだと夫は言った。

naturadistill 代表 大島草太とは

naturadistill代表の大島草太とは、いったいどんな人物なのだろうか。福島にお住まいの方の中には、もしかするとすでにご存じの方もいるかもしれない。現在28歳の彼だが、その活動のはじまりは福島大学在学中にまでさかのぼる。

栃木県宇都宮市出身の彼は、大学進学を機に福島県へ移り住んだ。今回蒸溜所を立ち上げた川内村には大学の授業を通して関わるようになり、そこに住む人と自然に魅せられたことがきっかけで、2019年に地域の産品を使用した“そば粉ワッフル”のキッチンカー販売「Kokage Kitchen」をはじめる。そのかたわら、田村市都路町のクラフトビール会社「HOPJAPAN」の社長と意気投合し、ビール醸造士としても勤務。福島の食に関わる様々な活動の中で、味は変わらないのに傷がついただけで廃棄になってしまう「規格外フルーツ」について、農家さんから相談を受けるようになる。そこで、未利用フルーツとハーブを掛け合わせたフルーツハーブティーブランド「Tea & Things」の立ち上げを行い、2022年にブランドをリリースした。

傍から見ると、次から次へとせわしなく動いているように感じるかもしれない。しかし彼の活動は留まることを知らず、それまでの経験を生かした「クラフトジン」の構想が始まったのだ。これは、福島の素材を活かした「香り×酒×地域」の可能性を感じてのことだった。

2023年末、蒸溜所立ち上げのため実施したクラウドファンディングでは多くの方に応援をいただき、ついに翌年の2024年11月2日、naturadistill 川内村蒸溜所オープンにいたった。
“naturadistill(ナチュラディスティル)”は、ラテン語の「natura(自然)+distill(蒸留)」を掛け合わせた屋号である。

Made in Japanが詰まったnaturadistillのクラフトジン

固有種の蒸溜酒

naturadistill 川内村蒸溜所では、蒸溜酒ジンを製造している。
ジンとはラム、ウォッカ、テキーラに並ぶ世界4大蒸留酒の一つで、ベースとなる原酒に“ボタニカル”と呼ばれる香りのもとを漬け込んで蒸溜したお酒のことだ。ボタニカルのひとつにジュニパーベリー(杜松の実)という針葉樹の実を使うことが、世界共通の認識となっている。

naturadistillの代表作となる「固有種蒸留酒」に使われているボタニカルは、日本で栽培が難しいジュニパーベリーを除いて、すべて日本の固有植物で構成されている。ここで言う固有植物とは特定の地域にのみ分布する植物のことで、今回はかやの実、橘、クロモジ、ニオイコブシの4種を使用している。

ところで、キーボタニカルのひとつである“かやの実”をご存じの方はいるだろうか?
榧(かや)という針葉樹になる実で、その成木は日本では主に将棋や囲碁の盤として使われる木材だ。彼が川内村でこの実と出会ったとき、爽やかな柑橘の香りと森林を思わせる凛とした奥深い香りに心惹かれ、忘れられなくなったと言う。また、福島県に日本一大きなかやの木があるという偶然も、その実をキーボタニカルに採用した所以である。

naturadistill 川内村蒸溜所 ボタニカル 橘

静岡県沼津市戸田(へだ)にある日本最北端の橘群生地へ。こちらは熟す前の橘の実。

こだわり抜いた蒸留器

どれだけいいボタニカルがあっても、それだけではいいジンはできない。
厳選したボタニカルの繊細な香りを取り出すために採用した「減圧蒸留器」には、naturadistill の強いこだわりが込められている。

naturadistill 川内村蒸溜所 減圧蒸留器

こだわりの減圧蒸留器。ライティングにもこだわっている。

「減圧蒸留器」と書いてしまうと難しそうな印象だが、原理は至ってシンプルだ。つまりは減圧できる蒸留器、ということ。標高が高い場所でお湯を沸かすと100度に達する前に沸騰をはじめる。これは気圧が低くなった関係で沸点も下がっている状態であり、この原理を蒸留器の中で再現しているのだ。
減圧蒸留器を使うことの最大の魅力は、繊細な香りを自然界と同じ温度、香りがいちばん立つ温度帯で蒸発させて抽出できるという点にある。
また、この減圧蒸留器はオーダーメイドで、愛知県の会社で作られている。一見無骨でシンプルだが、日本の技術をもってしてはじめて成り立つ代物なのだ。機能性が抜群に良く、だからこそいい香りが取れ、いいものができる。

Japanese Pride

naturadistillでは抽出方法のほか、味の構成方法にもこだわっている。ジンを製造する場合、一般的には複数のボタニカルを一度に蒸溜することが多いが、naturadistillではひとつひとつのボタニカルをそれぞれのベストの風味が抽出できる圧力で蒸溜し、その後ブレンドするという方法をとっている。これにより複雑で香り豊かなジンが完成するのだ。

海外で暮らしていると、日本に四季があることの尊さ、季節に寄り添ってつくられた衣食住の文化、知恵、技術の素晴らしさにつくづく気づかされる。島国であることのデメリットもあるかもしれないが、だからこそこの国でしかできないこと、この場所でしか作れないものがあるとも思う。特に「食」と「ものづくり」の繊細さは世界でも評価されるポテンシャルを持ち、人々を惹きつける魅力があると感じる。

日本の固有植物と、その香りを繊細に抽出する国産の蒸留器。これらが掛け合わされたnaturadistillのクラフトジンは、まさに“Japanese Pride”の結晶と言えるだろう。

福島発のジンが世界中で語られる日

彼のつくったお酒を飲むと、なぜだか語りたくなる。味や香り、その背景にある植物や文化、そしてこのお酒を作り上げた人々について誰かと分かち合いたい気持ちになる。それと同時に、誰かがこのジンを飲んでいるときは、つい聞きたくなる。あなたが何を感じたのか、このジンを飲んでどう感じ、どういう言葉を発するのかを知りたくなる。
naturadistillのお酒を取り扱っていただいているバーに行ったとき、そこのマスターが物凄い熱量でこのジンについて語ってくれたことがあった。私はそれを聞いてさらにわくわくした。うれしかった。夫の手から、人をここまで情熱的にしてしまうお酒が生まれたのだと。

私には大島草太という人間が、静かな台風のように感じることがある。
2年前は彼が一人で語っていた蒸溜所から広がる未来を、今では多くの大人たちが集まり、共に手を動かしながらにやにやと楽しそうに語り合っている。そしてさらにはこのジンを飲んだ人たちがそれぞれに楽しみ、語り合い、その輪を広げてくれている。
いいものはつくり手の魂を宿し、さらに周りの熱を纏いながら広がってゆくという光景を目の当たりにしながら、それがまるでゆっくりと、しかし大きな力をもって進んでいく“台風の目”のように見えた。雰囲気なのか、話し方なのか、生まれつきのものなのか…未だによくわからないが、この静かな彼の中に人を惹きつける想いと推進力が宿っているのだ。彼の存在が求心力となり多くの人を巻き込んで、小さな蒸溜所から世界を変えていく予感がした。

naturadistillの固有種蒸溜酒が福島から世界へ届く未来は、そう遠くないと思う。この福島県川内村の小さな蒸溜所で作られたジンが、日本中、世界中で語られる日が今から待ち遠しい。

naturadistill 川内村蒸溜所 固有種クラフトジン

川内村の小さな蒸留所。ここから世界へ。

 

【naturadistill 川内村蒸溜所】

住所:〒979-1201 福島県双葉郡川内村大字上川内字町分396-2
●Webサイトはこちら
●オンラインショップはこちら
●Instagramはこちら

《大島草太のその他の活動》
▶福島産そば粉ワッフルとチャイのキッチンカー販売「Kokage Kitchen
▶規格外フルーツを使用したハーブティーブランド「Tea & Things

 

大島みお

茨城県土浦市出身。田村市都路町在住。 食、散歩、ソフトクリーミイヨーグルトが好き。建設会社で土木技術者として勤務中。夫婦ともに県外出身で、いまは福島県で暮ら...

プロフィール

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