須賀川発の〝エシカル〟イベント「FUJINUMA GREEN DAYs 2025」レポート(後編)

5月4日、福島県須賀川市の自然豊かな藤沼湖自然公園で初となるアウトドア複合イベントが開催されました。その名も「FUJINUMA GREEN DAYs 2025〜未来へつなぐレイクサイドフェスタ〜(以下:FGDs)」。このFGDsでは〝自然との共生〟をテーマに、遊歩道トレッキングやカヌー、登山などのアクティビティのほか、マルシェやキッチンカーの出店や、夜には「レイクサイドシネマ」と称した藤沼湖畔での映画上映も行われました。
イベント全体をレポートした前編に続き、後半となる今回は、なかでも注目度の高かったアウトドアレストラン「Food Camp®」と、その後の野外上映会「レイクサイドシネマ」についてご紹介します。
地産地消をテーマにした一日限りのアウトドアレストラン「Food Camp®」
「Food Camp®」は、福島の食・人・自然を丸ごと味わうアウトドアレストランツアー。震災以降の福島の風評被害を払拭するために、地元の食材の美味しさを伝え、生産者と消費者を繋ぐアウトドアレストランを作りたいという想いからはじまった、株式会社孫の手(山口タクシーグループ)の手がける事業です。
収穫体験や生産者との交流を通じながら、食材の背景や風土に触れることはもちろん、自然の中でテーブルを囲み、一流シェフによる旬の食材を使ったコース料理を味わうことができるのが、この「Food Camp®」の醍醐味です。福島県内の畑や田んぼ、果樹園などを舞台にして展開されるこの事業は、まさに〝非日常を味わえる食の旅〟。旬の食材とシェフ渾身の一期一会のお料理を愉しみに、県内外から多くのファンが足を運びます。

「Food Camp®」は、福島のすばらしい生産者と一流シェフとのコラボレーションを青空の下でいただく、一日限りのアウトドアレストラン(写真:公式HPより)
今回の会場は、FDGsとのコラボレーション企画として、藤沼湖とキャンプ場が見渡せる見晴らしの良い高台となりました。ちょうど新緑が萌え、八重桜は満開の季節。お天気はやや不安定ではありましたが、ときおり顔を出した太陽が湖面をキラキラと反射させ、最高のFood Camp®日和です。
お料理を手がけたのは、郡山市でフランス料理店を営む國岡 弘益シェフ。フランス・ペリゴール地方のミシュラン星付きレストランで2年間修業を積んだ経験を持つ國岡シェフは、郡山駅前に「郡山フランス料理研究所 Recettes(ルセット)」と「Madame Kimiko」の2店舗を経営しています。今回は、地元食材を取り入れた伝統的なフランス料理を得意とするシェフが、須賀川や長沼地域の素材を活かした〝地産地消のフレンチコース〟で腕をふるいます。

当日のメニューの説明をおこなう國岡シェフ

Food Camp®当日の藤沼湖畔。肌寒いが、爽やかな五月晴れで気持ちの良い日。
長沼・岩瀬地域の恵みを五感で味わう贅沢なフレンチ・フルコース
気持ちの良い笑顔でスタッフの皆さんに迎えていただいた後、いよいよ待ちに待ったお料理の提供スタートです!
國岡シェフによるフレンチコースのお品書きは、見ているだけで想像力をかきたてられ、お皿が運ばれてくる前からわくわく…。さすが地産地消のフレンチだけあって、メニューからすでに地域の食材の名前がちりばめられています。
- フォアグラロワイヤル トリュフのアロマ
- 地場野菜のマリネとカリッと揚げたメヒカリのスパイシーペニエ
- 新玉ねぎとカリフラワー柳沼豆腐店の豆乳の冷たいポタージュ
- 福島産スズキのアクアパッツァ風パピヨット
- 若鶏のビネガー煮込みと天栄米のバターライス
- ヨーグルトのムースとおざわ農園のいちごのシャルロット仕立て
- パン
ここからは、みなさまに当日のおいしさを少しでもお裾分けするため、前菜から順にご紹介していきましょう。
アミューズ:「フォアグラロワイヤル トリュフのアロマ」

フォアグラのムース仕立て。空腹に沁みわたる濃厚な旨味に、「おいし〜」と歓声が上がるほど。
前菜:「地場野菜のマリネとカリッと揚げたメヒカリのスパイシーペニエ」

中はふわふわ、外はカリッと揚げられたメヒカリ。スパイスが効いた衣と淡白な身がよく合います。季節の山菜、「たらの芽」は須賀川で採れたものだそう。
冷製スープ:「新玉ねぎとカリフラワー 柳沼豆腐店の豆乳の冷たいポタージュ」

新玉ねぎの旨味とカリフラワーの甘味、地元・長沼の老舗「柳沼豆腐店」の濃厚な豆乳で、しっかりとした食べ応えのあるポタージュ。
魚料理:「福島産スズキのアクアパッツァ風パピヨット」
- 包まれた袋を開けて食べる特別感のあるメイン料理。福島産スズキは皮が香ばしく、身はふわふわ。
- 魚介の旨味が溶け込んだスープに浸かった野菜たちも絶品でした。
肉料理:「若鶏のビネガー煮込みと天栄米のバターライス」

しっかりと粒がたち、バターライスにも合う天栄米。若鶏はホロホロで柔らかく、フォークを入れるとすぐ崩れてしまうほど。お米と抜群の相性でした。
デザート:「ヨーグルトのムースとおざわ農園のいちごのシャルロット仕立て」

須賀川市の「おざわ農園」の苺をたっぷりと使った贅沢なデザート。ヨーグルトムースは甘さも控えめで、苺の甘さ、おいしさが引き立つお味。お腹いっぱいでもペロリと食べてしまう軽さでした。
ドリンクは郡山市の旬のベジカフェバル「Best Table」の提供です。コースに合わせたワインなどがある中、私は車での参加だったためノンアルコールドリンクをオーダーしました。

こちらは「おざわ農園」の完熟苺を使用した「苺のビネガーソーダ」。完熟苺の甘味とビネガーの爽やかな酸味と、ピンク色が春らしく美味しい一杯。
会場を通り抜ける風、あたり一面の新緑と青空、目の前に広がる湖…。藤沼湖の自然を目一杯感じながら、シェフが腕によりをかけた料理をたっぷりと味わった今回の「Food Camp®」は、地域の恵みを五感で感じる贅沢な時間でした。
環境へ配慮した「水素燃料電池キッチンカー」で、エネルギーまでサステナブルに
今回の「Food Camp®」で注目したいもう一つのポイントが、「水素燃料電池キッチンカー(以下:FCキッチンカー)」です。水素を燃料として生み出される電気を利用することで、CO2排出ゼロのクリーンなエネルギーで調理することができると言います。私たちのいただいたフルコースのお料理も、一部このFCキッチンカーを活用して提供されました。食を楽しむだけでなく、環境への配慮を〝体感〟できる仕掛けは、まさに今後のサステナブルツーリズムのモデルです。
また、このキッチンカーは、食事後の野外上映会でもプロジェクターの電源として活用されていました。

水素から生み出した電気で調理を行う水素燃料電池キッチンカー

水素燃料電池キッチンカーの車内(写真提供:株式会社孫の手)
食事の後は…レイクサイドシネマで〝食べること〟について考える
おいしい地産地消フレンチでお腹が満たされた後は、〝観て愉しむ〟野外上映会のスタートです。日が落ちて、空と湖がゆっくりとに茜色に染まりはじめたころ、キャンプサイトの中心にスクリーンと客席が登場したら、雰囲気は一気に「レイクサイドシネマ」の装いに。

野外上映会、開幕前の様子。肌寒いなか、多くの人が観覧におとずれていた。(撮影:concept-village inc.)
今回の上映作品は、『食べることは生きること〜アリス・ウォータースの美味しい革命~』です。この映画は、オーガニックフードの先駆者とされているアリス・ウォータースのドキュメンタリーで、彼女の集大成となる書籍『スローフード宣言 ― 食べることは生きること―』の出版一周年を記念した、来日ツアーの様子がおさめられています。
1971年、カリフォルニアで地元農家から届く無農薬・旬の食材を使い、サステナブルで誠実な料理を提供するレストラン「シェ・パニース」を創業したアリス。地域の農家と食べ手を直接つなぎ、素材を生かした料理を提供するこの店は、今や予約の取れない店として人気を博しています。その在り方はのちに「地産地消」「ファーマーズ・マーケット」「ファーム・トゥ・テーブル」というコンセプトに展開し、世界中で知られるようになりました。
「Food Camp®」の原点も、実はこのアリス・ウォータースの活動に影響を受けているといいます。

映画『食べることは生きること〜アリス・ウォータースの美味しい革命~』©2024 アリス映像プロジェクト/Ama No Kaze
映画のタイトルである〝We Are What We Eat(食べることは生きること)〟とは、「食べものが私たちの体や心をつくる」という意味ですが、その奥には、「食べることへの選択が私たちの社会をつくる」という彼女のメッセージが込められてるのかもしれません。
長沼の自然のなかで感じた、〝食べることは生きること〟の意味
上映が終わると、日中曇り空だった藤沼湖畔にも星空が広がり、キャンプファイヤーのあたたかな焚き火が燃えていました。観終わったあと、映画のなかの『Famers first(農家第一)』という言葉を思い浮かべながら、この長沼の農産物をつくる人たちと、それらを大切に受け継いできた人たちに想いを馳せていました。今日いただいた食材にも、地域の人たちの想いが込められている。食材と想いを受け取ったシェフは、力を尽くしておいしい料理を提供してくれる。では、その丹精込められたひと皿をいただく私たちは、いったい何をつなげるのだろう。消費者である私たちは〝食べること〟によって、どんなポジティブなバトンをつなげるのだろう。そんな問いを自分自身に投げかけながら帰路につき、あたたかで濃密な一日を終えたのです。

日が暮れたあとの焚き火は、いっそうあたたかく感じる(撮影:アンドウエリ)
〝エコ〟〝エシカル〟〝サステナビリティ〟という言葉は、さまざまな解釈ができると思います。いっぽうで今回ひとつ分かったのは、「Food Camp®」が、その在り方の一例を示してくれているということです。生産者もシェフも参加者もみなが前向きになれる、まさに〝三方よし〟の事業。日ごろ料理を提供する側である私自身にとっても、学びの多い体験となりました。
Food Camp®は、今年12月ころまで県内各地での開催が予定されています。百聞は一見にしかず。ぜひ、地域の食材にスポットを当てたFood Camp®を現地で体感してみてはいかがでしょうか?
【Food Camp®お申し込み】
住所:〒963-0105 福島県郡山市安積町長久保1-2-7
電話:024-945-1313
FAX:024-945-1324
営業時間:9:00~18:00
定休日:日・祝
お申し込み・お問い合わせは公式HPよりお願いいたします。
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