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3.11を知るために~東京電力廃炉資料館、見学のすすめ~

東京電力廃炉資料館 エントランス

東日本大震災から14年が経った。14年という期間が私たちにもたらしたものは、何だったのだろうか。変わったもの、変わらずにあるもの、変わらざるを得なかったもの、変わりたいのに変われずにあるもの…。当時、小学生だった子どもたちは成人の年齢となり、働きはじめの新社会人だった私自身も、40歳目前となった。
もちろん、この間にも日本をはじめ世界各地では、未曾有の事態や悲惨な出来事が絶えず勃発している。その度に心を痛め、自分自身の状況と重ね合わせて「なにかできることはなにか」と思う福島県民も、少なくないのではないか。

一個人で出来ることは限られているかもしれない。しかし、そこで諦めたくないというのが、この「ff_私たちの交換日記」というメディアをはじめた理由でもある。
今回は、東日本大震災から丸14年という現在地を記録しておくという意味で、記事を綴ろうと思う。

浜通り、ふたつの震災伝承施設

皆さんは、福島県内に震災後の、特に原子力発電所の事故について展示をしてある施設があることをご存知だろうか?福島県の沿岸部、通称「浜通り」には二つの震災を伝える施設があり、ひとつが双葉町にある「東日本大震災・原子力災害伝承館」、そしてもうひとつが富岡町にある「東京電力廃炉資料館」だ。
私自身、どちらの施設にも足を運んだことがあるのだが、正直な感想を言うと、展示の内容としては断然、「東京電力廃炉資料館」のほうが充実している。ここからはあくまで個人の感想だが、双葉町の伝承館は3.11や原発事故について広くあまねく知ってもらおうとしているせいか、内容も薄く、見せ方も必要以上にドラマティックにされている印象だ。一方で廃炉資料館に関しては、運営元が事故当事者の東京電力ということもあり、入館したその一歩目から、ひたすら「申し訳ございません」という徹底した空気感が漂い、事故当時の様子や原因などが細かく緻密に説明されている。

震災当時の様子や原発事故について知ってもらうには、個人的には「東京電力廃炉資料館」をおすすめしたい。ということで、今回は簡単にその廃炉資料館についてご紹介しようと思う。

東京電力廃炉資料館について

東京電力廃炉資料館は、2018年11月に東京電力ホールディングス㈱により開館。原発事故の記憶と記録・反省と教訓、廃炉現場の最新状況等を発信するため、同社が震災前より運営していた「エネルギー館」を改装して、新たに開設している。余談だが、この地域で育った人間なら、小学校の社会科見学など「エネルギー館」に足を運んだという人も多いことと思う。私もその一人だ。

東京電力廃炉資料館 地図 アクセス

東京電力廃炉資料館は、福島第一原子力発電所から南に約10キロの富岡町に位置する。

二階建てのこの東京電力廃炉資料館(以下:資料館)は、施設を大きく3つのゾーンに分けて、原子力発電所の事故の記録と教訓を開示・展示している。まず入館してすぐ目に入るのが、3.11で起きた福島での原子力発電所の一連の事故における、東京電力としての謝罪と反省の文章だ。資料館ではこのゾーンを『プロローグ』とし、冒頭からこの事故への東電としての態度を示している。

東京電力廃炉資料館 エントランス

廃炉資料館のエントランス。「プロローグ1」とされた、原発事故の謝罪と反省の文章。

次に2階へ進むと、『記憶と記録・反省と教訓』のゾーンとなる。ここが事故当時の様子を知るためのメインエリアであり、情報量がもっとも多いゾーンだ。シアターホールでは、地震発生から原子力事故の対応までの一連の流れが放映されていて、この事故の概要をあらためて知ることができる。シアターホールを出ると、復旧までの11日間の経過を展示したパネルや、1~4号機の模型を用いて原子炉内部から事象を振り返るコーナーなどがあり、より具体的な事故当時の状況を知ることができる。また、事故の発生状況だけでなく、原子力の知識を正しく知るための基本情報も展示しているのも、このゾーンの特徴だ。

東京電力廃炉資料館 館内マップ

廃炉資料館 施設マップ(公式サイトより)

3つめのゾーンである『廃炉現場の姿』では、今なお続く廃炉の状況をリアルタイムで展示している。ここでは、燃料/燃料デブリの取り出しの状況や、汚染水・処理水対策、廃棄物の処理や保管方法などの事故処理に関する情報から、それらに対応するための新しいロボット技術や国内外の最新技術の紹介など、事故当時から現在にいたるまでの原発まわりの動きを包括的に知ることができる。

廃炉作業とは?

原子力発電や一連の事故についてもっとも気になるのが、「廃炉」についてではないだろうか?原発被災地域に故郷をもつ私自身も、このことについてきちんと理解できているかと言われれば、“NO”というのが正直なところである。ここで少し、簡単にだが廃炉作業について、東電の公開情報をもとに触れておきたい。

廃炉作業とはなにか?

東電のウェブサイトでは、以下のように説明されている。

福島第一原子力発電所における廃炉作業とは、原子炉施設の解体等を進めていくことです。それに向けて、まず、使用済燃料プールに保管されている核燃料を取り出し、その後、炉内に溶け落ちた燃料(燃料デブリ)を取り出す作業が必要となります。事故により発生した放射性物質によるリスクを継続的に下げるため、主に4つの作業(「燃料取り出し」、「燃料デブリ取り出し」「汚染水対策」「原子炉施設の解体等」)に取組み、期間としては、30〜40年かかる見通しです。

廃炉の取り組みとは?

30~40年かかると言われている廃炉作業とは、具体的にどんなものだろうか?こちらも東電のウェブサイトから、福島原子力発電所に対しての回答を引用・抜粋する。

  • 汚染水対策

    山側から海側に流れている地下水や破損した建屋から入る雨水などが、原子炉建屋等に流れ込み、建屋内等に溜まっている放射性物質を含む水と混ざることなどで汚染水は増加する。汚染源を「取り除く」、汚染源に水を「近づけない」、汚染水を「漏らさない」の3つの基本方針にそって、地下水を安定的に制御するための、重層的な汚染水対策を進める。

  • 燃料取り出し

    原子炉建屋上部にある使用済燃料プールには、発電に使用された使用済燃料等が貯蔵されている。この使用済燃料等によるリスクを下げるため、事故を起こした原子炉建屋からの燃料取り出し作業やその準備を進める。
    ※使用済燃料プールとは:発電のため原子炉で使用した燃料のこと。取り出した使用済燃料は熱を発することから、安定して貯蔵するために冷却する必要がある。

  • 燃料デブリ取り出し

    1~3号機には、燃料と燃料を覆っていた金属の被覆管などが溶け、再び固まった燃料デブリがある。燃料デブリによるリスクを下げるため、その取り出し作業を初号機(2号機)から着手し、段階的に取り出し規模を拡大していく。取り出した燃料デブリは、発電所構内に新設予定の保管設備で保管する。

  • 廃棄物対策

    廃炉作業に伴い発生する廃棄物は、放射線量に応じて分別し、福島第一原子力発電所の構内に保管している。安全確保の徹底と処理・処分の方法検討等を進めることと並行して、廃棄物への対策をより確実に進めるため、当面10年程度の発生予測に基づいて、固体廃棄物の保管管理計画を作成。保管管理計画は、廃炉作業の進捗等を踏まえて、1年に一度、発生予測を見直しながら、更新している。

廃炉作業に関する取り組みとしてはこの他にも、原子炉施設の解体や労働環境の整備などが挙げられる。
その他、廃炉作業に関する東京電力としての回答は、以下のサイトより確認することができるので、気になる方はぜひご覧いただきたい。

「もっと知りたい廃炉のこと」

廃炉資料館ツアーに参加してみて

廃炉資料館では、希望者を対象に館内の予約制の案内ツアーを用意している。個人・団体ともに申込み可能で、実施日時は施設ホームページより確認可能だ。私も一昨年(2023年)にこのガイドツアーに参加してきたのだが、特にはじめて施設を訪れるという方にはおすすめしたい。「原子力発電とはなにか」という基礎的な説明から、順を追って事故発生当時の様子と対応を説明してもらえるので、全体の概要を知るのには適していると思う。

東京電力廃炉資料館 案内ツアー

案内ツアーでは、原子力の基本説明や事故当時の状況が伝えられる。※写真撮影は許可のおりた箇所のみ。

ただし、一回のツアーではとてもすべてを見きれない、というのも正直な印象である。ツアーはあくまで概要をおさえるために参加し、その後は自分のペースであらためて見て回る必要があると感じた。数日あるいは数回に分けてはじめて理解、消化できる展示のボリュームである。

私たちが今、知っておくべきこと

東日本大震災から丸14年たった今、私たちが知っておくべきこと、見ておくべきこととは何なのだろうか?全国各所の原子力発電所の再稼働についてもたびたび報じられるようになり、当時の被害状況や事故についての関心も薄くなっていると言わざるを得ない今、一般市民である私たちにとって、原発問題とはこれまでより一層、口にしがたいトピックになりつつあるような気がしてならない。
私自身、浜通りの出身とは言え、基本的な原発事故の知識が備わっているかもあやしいほどの人間である。語らずにいるうちに次第に情報も知識も薄れていき、それにともない語れることが減っている実感もある。そしてその“語れなさ”に罪悪感を感じて、また口をつぐむという悪循環に陥っているのだ。

当メディア「ff_私たちの交換日記」は、震災後の言葉にできない気持ちを、それでもあえて言葉にして伝えてみよう、という想いから立ち上がった。人それぞれ状況も感じ方も違う“震災後”だけれど、それでも伝えていかなきゃいけないことってあるよね、という想いは、今でも変わっていない。今回、原発事故について触れることにも正直なところ勇気がいったが、「見て見ぬふり」をするよりはましだろうと、素人なりの精一杯で筆を走らせたつもりである。

廃炉や福島原発の現状については、ぜひ今回ご紹介した施設やサイトを訪れて、ご自身の目で確認していただきたい。国内外から様々な注目を集め、“これからの未来”にフォーカスして報道されがちな浜通り地域であるが、その足元には、あと数十年かかっても解決しきれるか分からない重大な課題があることを、いっぽうで私たちは忘れてはならないのだ。

 

東京電力廃炉資料館

【東京電力廃炉資料館】
◉所在地:福島県双葉郡富岡町中央三丁目58番地
(旧住所:福島県双葉郡富岡町大字小浜字中央378番地)
◉連絡先:0120-502-957
◉開館時間:9時30分~16時30分
◉休館日:毎月第3日曜日および年末年始
◉入館料:無料(駐車場無料)
HPはこちら

【参考資料・サイト】
東京電力廃炉資料館リーフレット
もっと知りたい廃炉のこと

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

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