『片づけ思想家 olto』 大浪優紀さん

「片づけをするっていうことが、いろんな人生に役立つと思ったんです」

はじめて出会ったとき、彼女はこう語ってくれた。
片づけが人生に役立つ。受け取り方によっては「何を大げさな」と思う人もいるかもしれない。だけど彼女が語る「片づけ」が流行りのそれと違うことは、その雰囲気や話し口から容易に想像できた。

片づけワークショプの様子。

『olto』の屋号で片づけレッスンを提供する大浪優紀さんは、本宮市出身。東京と福島での二拠点生活をしながら、片づけをはじめとした暮らしのヒントや学びを、丁寧な言葉で発信している。

私が優紀さんとはじめて出会った昨年の春ごろ、彼女は「片づけコンサルタント」と名乗っていた。2019年に独立してから延べ700件以上の片づけレッスンを担当してきた彼女なので、「コンサルタント」という肩書きを使うことに、なんら違和感はない。でも、いつ頃からだったろう。彼女は自らの生業を『片づけ思想家』と表現するようになった。

“なぜ” を曲げられなかった、子ども時代

子どもの頃から「なぜだろう」が多いタイプだったと、優紀さんは言う。
小学生の頃、軽度の知的障害のある子がクラスメイトにいて、その子が皆と同じように扱われないことに “なぜ” を強く感じていた。学年が上がるにつれて、これまでぼんやりとしていた “どうして” という違和感は明確に態度に表れるようになり、中学に上がる頃にはほとんど不登校となった。高校時代もまともに出席することの方が稀で、この世の全てに反抗するかのように、思い切り不良として過ごした。
学ぶ楽しさを実感できたのは、大学に進学してからだと言う。「行っても行かなくてもいい」というスタイルと「なぜ・どうして」を突き詰められる環境が、肌に合っていたのだろう。専攻していた国際関係学をもとに、小さい頃から気になっていた「平和とは何か」というテーマについて真剣に考えるようになる。

小学生の頃の優紀さん。三人のご兄弟と。

体調を崩して知った「持ちすぎていた自分」

卒業後は東京にあるインテリア会社に就職したが、忙しい日々の中で体調を崩してしまう。故郷である福島に帰ることを決め、引っ越しの荷物をまとめながら、これまで自分が買ったものを眺めてひしひしと思った。「ガラクタばっかりだ」と。汗水流して、体調を崩してまで働いて稼いだお金で手に入れていたのは、こんなものばかりだったのだろうか。買ってから一度も袖を通していない服、いつか読もうと思いながら永遠に読めそうにない本の山、高いお金を出して買った憧れの食器…。それはまるで、“抱えすぎ”な自分の心をそのまま表しているようだった。

東京のご自宅。優紀さんのような、整えられた空間

「本当の片づけとは、モノを収納することでも、ただ捨てることでもないと思っています」

彼女の伝える片づけとは、収納用品を買って右から左へモノを移動させることでも、片っ端から捨てまくることでもない。片づけという “プロセス” を経て、自分自身の心の動きと対峙することだ。いま自分は何を選んで、何を手放すのか。そうやって出来上がった空間を思い切り愛おしみ、受け入れる。なぜならそこは “いまの自分” が凝縮された、いわば自分の分身のような空間だからだ。

「いま必要なもの」が分かると、満たされる。平和になる。

いらないものに囲まれて過ごし、やりたくないことを我慢してやり続けるうちに、私たちは少しずつ自分自身を傷つけているのかもしれない。見えないストレスを重ね、小さな嘘をつきながらする選択の先に、果たして本当に手に入れたい生活はあるのだろうか。なりたい自分はあるのだろうか。優紀さんが片づけを通して伝えたいことは「今、それはあなたにとって必要ですか」ということだ。

単なる整理整頓の域を超えて、片づけることで “生き方そのもの” を見つめてもらうやり方は、やはり『片づけ思想家』と呼ぶほうがしっくりくる。

服をきちんと畳むこととは、感謝して“手当てすること”と、優紀さん。

最近彼女は、東京の自宅を“ひらく”ということをはじめた。
「小さき家」として、片づけにとどまらない日々の暮らしの愉しみを、訪れた人と一緒に共有しようという試みだ。料理をして、一緒に食べる。手仕事をしながら、お喋りをする。こうやって、やりたいと思うことに素直に取り組むと、「暮らすことと働くこと」の境界線がどんどん溶けていくようだ。だからだろうか、彼女はいつだって自然体で美しい。

東京のご自宅にて。“暮らしのお裾分け”として、来てくれた方と一緒に味噌を仕込む

「捨てたいものを、ちゃんと捨てる。家にあるモノを、自分の価値観で見つめ直していく。そういうお家を一つ一つ増やしていくことが、私にとっての “平和的活動” だと思っています」

すべてのことに “なぜ” を突きつけていた彼女の眼差しは今、「片づけ」という方法を得て柔らかな慈愛に満ちている。

 大浪優紀(おおなみ ゆうき)
『olto』の屋号で2019年より片づけレッスンをはじめる。東京を中心に2年間でおよそ700件以上の片づけを担当し、暮らしをととのえるお手伝いをしてきた。2020年には肩書きを「片づけコンサルタント」から「片づけ思想家」へと変え、モノを通して自分の内面をととのえるための“片づけ”をより大切に伝えている。現在、東京と福島の二拠点生活中。

その他の活動;
◆小さき家(暮らしのアトリエ)
◆且緩々ラジオ

►Webはこちら
►Instagram @olto_f

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

プロフィール

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