『木工作家 yashu』佐久間隼人さん

yashuさんの作品をはじめてSNSで見たとき、「これだ」と思った。
静かに佇む小さな花器。滑らかな曲線で表されたシルエットは、そこにあるだけで詩的な何かを感じさせる。

yashuの木製の花器。


実際にyashuさんに会えたのは、SNSを拝見してから間もなくの2020年の年始め。地元のイベントに出店していて、私は胸が高鳴るのをこらえながら、そっとブースに立ち寄ったのだ。

飾り棚に丁寧に並べられた彼の作品をよく見てみると、すべて“木”で出来ている。画面越しに見る滑らかな質感から、てっきり陶器だと思い込んでいた私は、驚きを隠せなかった。黒の釉薬を塗ったように艶やかな作品でさえ、木を鉄成分で酸化させてつくったものだと言う。

橡(トチ)の花器。木の表面を鉄で酸化させることで、黒味を出している。


木工作家“yashu”こと佐久間隼人さんは、地元・郡山市の家具屋での勤務を経て2019年に独立した。家具屋と言っても家具をつくるだけでなく、大工仕事から修理・接客まで「家」と「木」に関わること全般を請け負っていた会社だったため、佐久間さんも様々な業務に携わった。そんな中、次第に作業の中で余って使われずにいる「端材」が気になるようになる。

「まだ使えるのに、もったいない。何か他のものに変えられないだろうか」

そんな想いが、現在の佐久間さんの現在の活動の源となった。

中島村の工房

結婚をして中島村に住むことになり、ちょうど良い作業場が確保できそうだというタイミングで、独立した。屋号は「自然味あふれる」という意味の「野趣」から、“yashu”とした。端材を暮らしの中の身近なものに変換することで、また別の新しい価値を吹き込む。欠けていても窪んでいても、自然のまま、ありのまま。彼の作品には、“きれいにしてごまかす”というところが、少しもない。

ひとりで作業するのにちょうど良い工房は、気持ちよく整頓されている。


実は私は以前、佐久間さんに家の改修をお願いしたことがある。一人で施工を担当するのは佐久間さんにとっても新しい挑戦だったようだが、相変わらず彼の仕事は素晴らしかった。家具制作で培った繊細さが家づくりの随所に活かされ、ひとつひとつ、見えない部分も手を抜くことなくつくってくれた。大事なことを決めるときは、いつも施主である私に相談してくれ、間違いのない緻密さで施工してくれた。

今、仕上がった我が家を見渡してみて、やっぱり彼に頼んで良かったと思う。
はじめてあの花器を手にしたときのような感激を、今度は自分を包んでくれる家を通して感じられる。それはつまり、丁寧につくられた空間で“安心感”に包まれて暮らしている、ということなのだ。
改修が完了した後も、佐久間さんはたまに立ち寄っては家の状態を確認してくれたり、ついてしまった傷なんかをササっと直してくれたりする。こうやって「つくった先」の関係性をも紡いでいけるのは、実はものすごく豊かなことなのではないだろうか。お金を払って終わり、つくって終わりではない関わり方が、人間らしくて心地いい。

今後の佐久間さんの制作意欲は、「暮らしの道具」に向いていると言う。今年の春に生まれたばかりのお子さんの存在が大きいらしい。皿やカトラリーなど、これまでとはまた違った創作を見せてくれることだろう。家と家具と道具と。彼のつくる“野趣あふれる、自然な美しさ”で暮らしが満たされていったらどんなに幸せだろう。また胸が高鳴る。

 

『木工作家yashu』 佐久間 隼人(さくま はやと)
福島県郡山市生まれ、中島村在住。“野趣あふれる”をテーマに木工作家yashuとして活動。中島村の工房で、端材など自然の美しさを活かした木工作品を創作している。

instagram@____yashu
制作のご依頼・ご相談は上記instagramアカウントよりDMにてお問い合わせください。

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

プロフィール

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