『yashu 黒の器 展』
福島県中島村を拠点として活動する木工作家「yashu」の個展が、今月から開催されている。家具職人としての顔も持ち、木工作家としては花器などを中心に、その緻密さや繊細さを活かした作品づくりをしてきたきたyashuだが、今回は新たに「器」へ挑戦している。しかもそのすべてが〝黒〟というから興味深い。
日常に馴染む、木の可能性を探りたかった
今回の個展のために用意したのは、およそ30枚の器。大きさは4種類で、大きいものから直径8寸(24cm)、7寸(21cm)、6寸(18cm)、茶托サイズ(10.5cm)である。いずれも深さはそこまであるわけではなく、どちらかと言うと「平皿」の印象だが、器周りの縁(リム)がたっぷりと設けられているおかげで、汁物も受け止めてくれそうな安心感がある。
今回のテーマを〝黒〟に選んだ点について、「何か新しいことに挑戦してみたかった」と、yashuこと佐久間隼人さんは語る。
「〝木工〟と聞くと、どうしても生成りのナチュラルな、優しいイメージが先行すると思うんです。それももちろん美しいのですが、より様々な生活のシーンに馴染むものをと考えたときに、木で〝黒〟の器をつくってみたいと思いました。黒なら草木染めで出せますし、今回の会場である時雨さんの雰囲気にもマッチするかと思いまして。」
一見すると陶器のようにも見える黒の木器だが、この深い色味を出すには、やはり多くの工程と手間がかかっているそうだ。
「塗りの工程は、全部で7回にまでのぼります。この色を出すには柿渋と鉄染め液を交互に塗っていくのですが、なんせ相手は木なので、乾燥させている間にも毛羽立ったり、反ってしまうこともありまして…。そんな変化にも合わせながら、一枚一枚手作業で作り上げました。」
よく見ると器ごとに木目が違う。今回の制作には、「山桜」と「栗」の木を使用していると言う。木目が目立たず、まさに漆器ような装いの山桜と、木ならではの木目が黒に透けて美しい栗。器ごとに微妙に異なる個性を見比べながら「どれを選ぼうか」と悩むことも、手作りだからこそ味わえる愉しみだ。
傷も色落ちも愉しんで
「木の器」と聞いて、どのように使ったら良いのかを迷う人もいるだろう。
油ものはOKなのか、ナイフで傷はついてしまわないか、洗い方はどうしたらいいのか…。
考え始めると尽きないが、そんな木工初心者に佐久間さんは優しく提案してくれる。
「ナイフを使えば、やっぱり傷はつくんですよ。木ですからね。でも私はその傷も味になると思っていて。例えばヨーロッパの古い木皿などを見てみると、しっかりナイフの跡が残っていたりするんですよね。そんな風に日常の暮らしに馴染みながら、たくさん使ってもらえると嬉しいです。気になるようであればヤスリをかけたり、塗り直しもできる点も木ならではの良さですね。」
油っぽい料理にも問題なく使える。洗い方は、汚れが気になる場合には中性洗剤で、そこまで汚れていない場合は水洗いでも十分とのこと。ただし急激な乾燥や高温に弱いので、食洗機や食器乾燥機は避けて「自然乾燥」が鉄則だ。自宅でセルフメンテナンスする際には食用のオイルを塗って馴染ませると、ツヤも出て長く使える。
陶器とはひと味違った「木の器」。
傷や色落ちといった経年変化も愉しみながら、食卓の歴史を一緒に刻んでいくのはいかがだろうか。草木染めの深くて優しい〝黒〟が、いつものお料理を引き立ててくれることと思う。
『yashu 黒の器 展』
会期:2023年6月1日(木)ー25(日)13:00〜19:00
定休日/月、火、水曜日
※会期中、週末は作家在廊予定。
会場:「古物屋 時雨」
福島県須賀川市守谷舘11-1
Instagram @shigure_antiques
▶Instagram @____yashu
▶yashu 佐久間隼人さんのインタビュー記事はこちら
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