『VIDAトレーニングスクール パーソナルトレーナー』湯座聖美さん

「この人のことを書きたい」。まずはじめにそう思った。彼女のような生き方こそが『ff』が表したい“福島の美しさ”を体現していると思った。困難から逃げない強さと溢れるほどの愛情、そしてそれらの間をもがきながら行き来する揺らぎと。キッパリと説明できる「強さ」や「愛情」だけでないところが、彼女を余計に美しくさせている。

湯座聖美さんは、郡山在住のパーソナルトレーナー。ダイエットインストラクターとしての活動をはじめ、産前・産後にフォーカスした体づくりのレッスンなど、「女性の健康」を中心としたエクササイズプログラムを提供している。
私がはじめて湯座さんと出会ったとき、彼女は泥酔していた。初対面にも関わらず大きな声ではつらつと話しかけてくれ、そのエネルギッシュさに圧倒されながらも、なぜか帰り際には元気をもらっていた。「元気な人だなー」というのが、当時の私も含め、彼女に対する周囲の一般的なイメージだろう。

パーソナルトレーナー 湯座聖美さん

健康とは、“満たされている”ということ。

実は今年のはじめ頃から3ヶ月間、私は湯座さんのパーソナルトレーニングを受けていた。彼女の「体と健康」に対する情熱が並ではないことをそれまでの付き合いで知っていたし、何より自分の“体”という極めてパーソナルな領域を委ねる相手として、彼女以上の適任はいないと思ったからだ。結論から言うとこの3ヶ月という期間は、私がこれまで知らなかった自分の「体」について、そしてこれからの自分の「暮らし方」について向き合うための、かけがえのない時間となった。

「健康の定義ってね、肉体的にも精神的にも社会的にも、すべてが “満たされてる”ってことなんですよ。これは実はWHOでも定義されていることなんです」

きれいになりたい、今よりもっと良い状態になりたいと思うのは人の常だ。医療技術が進歩して長く生きられる「寿命」自体は伸びている現代だが、そもそも私たちはどんな状態でいたら“健やか”に生きていることになるのだろうか。「〇キロ痩せました！」「体脂肪が減りました！」という喜びの一方で、「痩せてどうなりたいの？」という問いを忘れてはならない気がする。もちろんフィジカル面では“健康”に近づいたと言えるだろう。でもその先にあるのは「なぜ健康になりたいのですか？」「健康になって、どう生きたいのですか？」という根本的な“人生に対しての問い”なのだ。
湯座さんの特に1対1でのパーソナルトレーニングでは、そのことについてしっかりと向き合うことができる。

体を動かすことで、解消できることもある。

今でこそ元気印と筋肉のイメージがある湯座さんだが、もともと運動は苦手だったと言う。彼女が“体と健康”について興味を持ち始めたのは、29歳の頃。お子さんの七五三で撮った写真を見て、「ダイエットしよう」と思ったのがきっかけだ。20台前半で結婚をし、二人目を出産した後に東日本大震災が起こった。続く余震と放射線の見えない恐怖に不安を感じながら、子供のことを考えて県外への避難生活を選択した。震災から一年後には三人目のお子さんを出産し、28歳で三児の母となる。

「結婚した頃はなぜか、“母はこうあらねばならない”、“妻としてこれをしなくてはならない”と、自分自身に大きな枷をかけていたんですよね。そこに震災が起こって、守らならければいけない子供の命を目の前にして、もう不安と恐怖と責任感とでぐちゃぐちゃになっちゃって」

放射線の影響が出やすいと言われている甲状腺の問題も、「肥満」がその影響を加速させているという医師の言葉が、ダイエットを決意する決定打となった。子供の肥満解消もそうだが、まずは自分自身が健康体を目指そうと2ヶ月間のダイエットをスタートさせ、一年半で25キロの減量に成功した。

湯座さんの提供するレッスン『Vトレ』のひとコマ。

レッスンでは体を動かすだけでなく、「なぜ必要」で「どう効くのか」までをきちんと伝える。

「何より、体を動かすことでそれまで落ち込んでいた気持ちが軽くなっていったんです。辛かった毎日もダイエットで達成感を得ることによって、“生きる喜び”に変わっていったんだと思うんですよね。それまで漠然と感じていた不安が、どんどん解消されていきました」

“健やかな体”と、“周りへの愛が”すべての土台。

この経験をもとに湯座さんはフィットネスジムに転職し、インストラクターとしての活動をはじめる。マタニティフィットネスの資格取得を機に初めて自主企画でのレッスンを開き、その後は彼女のトレーニングに共感した人たちから、「うちでもやってほしい」と声をかけてもらえるようになった。2019年には独立し、『VIDAトレーニングスクール』を設立させた。

2019年に設立した『VIDAトレーニングスクール』

「子供の健康を第一に考えて、そのために何ができるかを必死に探していましたが、結局はまず家庭の健康を担う“お母さん自身”が健やかである必要があると気づいたんです。ありがたいことに『湯座さんのレッスンを受けると元気になる！』と言っていただけることも増えました。でも一方で感じているのは、これは“私だから”できているレッスンではないということ。ぜひ沢山の方に受けていただいて、それをどんどん持ち帰って、ご家族や大切な人に伝えて欲しいと思います。体を動かすことで解決できちゃう不安や心配事って、案外たくさんあると思うんですよ」

自分が目立ちたいわけじゃない。ダイエットを始めたのも子供のことを想ってのこと、トレーニングを提供しているのも、お母さん達の健康とその先にある家族を想ってのこと。こんな風に周りへの愛情を最優先にする湯座さんだから、私は彼女が好きなのだと思う。

生きていく上では、思いがけない困難や苦労がつきものだ。だけどそんな時も、「健やかな体」と自分自身と周りとを「労わる愛」があれば、満たされた人生を歩むことができるのではないだろうか。そしてそんな人生を送っている人が増えた先に、“満たされた社会”はやってくるのではないだろうか。彼女が愛情を持って提供するトレーニングは、上辺だけの造形美や自己愛だけを満たすものではない。本当の意味での「健康な社会」を築くための大切な土台づくりなのだ。

パーソナルトレーナー 湯座 聖美（ゆざ きよみ）
福島県郡山生まれ。20代での出産、震災を機にはじめたダイエットの経験を活かし、インストラクターとしての活動を開始する。2019年に独立し『VIDAトレーニングスクール』を設立。郡山市のスタジオを拠点として地域の学校や自治体、企業への出張講座やトレーニングなど、健康への啓蒙活動も積極的に行っている。トレーナーの他、地元ラジオのパーソナリティーやテレビ番組のリポーターなど、メディアでも活動を展開中。

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