『ff つなぎ手』コラム担当 佐久間陽香

つなぎ手

陽香さんと出会ったのは、いつ頃だったろう。
その清らかで眩しい笑顔を、私はいつも恋するような気持ちで眺めてしまう。

『ff -私たちの交換日記-』をはじめたいと思ったとき、陽香さんの笑顔がふと浮かんでお誘いした。いつだって丁寧で謙虚な彼女は「お役立てできるか分かりませんが、ぜひ」という返事をくれて、交換日記のメンバーになってくれた。

それから約2年、色々あった。メンバーの一人だったエリカちゃんが突然亡くなり、陽香さんはお腹に新しい命を宿して、お母さんになった。
言い出しっぺのくせにいつも交換日記を止めてしまう私のだらしなさとは裏腹に、彼女はいつもきちんと、そして心を込めて書いてくれ、その言葉のひと粒ひと粒が凝縮されたエッセンシャルオイルのように体中に染み渡った。

陽香さん。ご自宅にて。

パートナーと生まれたばかりのお子さんと猫二匹と、福島県中島村に暮らす陽香さんのお宅を訪ねると、彼女の優しさがそのまま表れたような空間が広がっていた。
お祖母様が住んでいたという築40年ほどの平屋は、古くとも趣があり、敷地内には木工作家である旦那さんの工房も隣接している。目の前の広々とした畑では、季節ごとの野菜や植物を、できるだけ自然な形で育てていると言う。

“ここで暮らしていると、自分だけで生まれて生きてるんじゃないって、感じられるんです”

ついつい日常生活の中で私たちは、どこか「人間あっての地球」だと思いがちだ。だけどそんな時、ちょっと歩みを止めて足元の草花に目を落としてみたり、体を通り抜ける風を感じてみたりすると、「私は一人で生きてるんじゃない。だから周りにも優しくあろう」と思える気がする。

陽香さんのご自宅。玄関先。

部屋の中には、ご夫婦のセンスが溢れている。

子供の頃からなぜか “いのち” についてよく考える子で、中学生の時にお父様が亡くなってからは「人は何のために生きているのか」と思うようになったそうだ。看護師の道を選び、日々の業務の中で様々な “いのち”に向き合いながらも、“仕事”として出来ることと出来ないことの狭間で、葛藤を抱えながら業務にあたっていたと言う。

そんな中、20代後半の頃に体調を崩した。自分自身の体の不調をきっかけに「食」への関心が高まり、そこから彼女は、衣食住全体を “自然に根ざしたもの” にしたいと思うようになる。

「時には、なぜ自然に寄り添った生活ができないのだろうと、自分とは違う選択をした人たちを受け入れられないこともありました」

体にも地球にも良い暮らしなのに、なぜ選ばないのだろう…そんなもどかしさと3.11後の複雑な状況が重なり、苦悩した。生活のあらゆるシーンで「善 vs 悪」の対立構造が生まれてしまう状況に、悲しさを覚えることもあった。でもその難しさの中にあって、彼女は“自分の”心地よいと感じる生活を模索し続けることを止めなかった。

無肥料・無農薬で作物を育ててみること。あるものを活かして手作りしてみること。使いすぎず、買いすぎない生活をしてみること…。結婚して中島村で暮らすようになってからの数年間は、“心を耕す時間”だったと振り返る。

「色んな人がいていいんだよねって、ようやく思えるようになったんです」
自分とは違う選択をした人たちへの向き合い方を育んできた彼女の表情は、今とても穏やかだ。

震災を経て、ますます福島の豊かな自然が好きになったという陽香さんの今後の夢は、「雑貨屋さん」を開くこと。体にも環境にも優しい日用品や食料品など、自分がセレクトした品々をお店に並べ、中島村の気持ちの良い空気を味わってもらう。時にはちょとしたお菓子や飲み物を出したり、目の前の畑で収穫してもらったりもいいかもしれない。

とにかく純粋に「美味しくて、楽しい時間」をみんなでワイワイと過ごしたい。そう語ってくれる彼女の笑顔は、やっぱり眩しかった。

佐久間 陽香(さくま はるか)
福島県三春町生まれ、中島村在住。自然とともに、ありのままに。身の丈に合った生活を楽しみながら、夫と息子と猫二匹とで、おばあさんの残してくれた平屋で暮らしている。『ff -私たちの交換日記』コラム担当。

instagram @nekonihikito_tomoni

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

プロフィール

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