『ff つなぎ手』海外情報担当 鈴木千尋
千尋ちゃんと話すと、まるで見晴らしのいい草原にいる心持ちになる。いや、もちろん実際には居ないのだけれど、彼女の選ぶ言葉や話し方、仕草のひとつひとつが、肌ざわりの良いそよ風のようにこちら側に伝わってくるのだ。
実は私がこの『ff_私たちの交換日記』をはじめたいと思ったとき、真っ先に声をかけたのが千尋ちゃんだった。私がまだ福島にUターンしてくる前、東京にいた頃から『SHIZEN TO KURASU』フォローをしていて、「福島にもこういう人がいるんだな」と、その活動に密かに注目をしていたのだ。念願かなって初めてイベント出店をしている彼女と出会えたとき、私は小躍りしながらスタッシャ―ひとつと蜜蝋ラップを購入した。
“小さな違和感”を大切にする
大学時代、イギリスとオーストラリアへの留学を経験した千尋さん。どちらの国もそれぞれに美しい自然があり、そのことを現地の人たちもよく自覚していた。自国の美しい自然を守るために、何をして、何をせずにいたらいいか。“環境を守ること”に対しての日本との意識の差を肌で感じたと言う。
帰国後、千尋さんの中での“小さな違和感”は、少しずつ大きくなっていく。納豆パックや洗濯バサミなどの日々のプラスチック製品、毎日大量に作られては廃棄される食料品とそのために飼育される動物の命。“しょうがないこと”と片づけてしまえばそれまでかもしれないけれど、この心がチクチク刺されるような感覚を、どうしても見過ごせずことができなかった。
「例えば、なるべくプラスチック製品でないものを欲しいと思ったとき、まず他の選択肢がないことにモヤモヤを感じていました。今あるものの中で満足するのも大切ですが、私の場合は、“ないならつくってしまおう”と思ったんです」
SHIZEN TO KURASUをはじめた当初、「エコ」や「エシカル」を意識した製品や店舗は、県内にほとんどなかった。同じように感じている人を見つけることも難しく、「地球にとって良い選択とは?」を気軽に話せる仲間が欲しいと思っても、中々叶わなかったと言う。
しかし小さいながらも活動を続けるうちに、次第に周りの雰囲気が変わっていった。SHIZEN TO KURASUをはじめてから3年が経った今、エコプロダクトの委託販売先は県内10店舗まで増え、繰り返し来てくれるお客様も増えている。これはまさに、「ないならつくる」という彼女の一歩が生み出した変化だ。
楽しいこと、自然であること、強要しないこと。
“小さな違和感”を見過ごさないことを大切にする一方で、「~~すべき」のように声高なメッセージを千尋さんは決して発さない。SHIZEN TO KURASUで大切にしているのは“楽しく、心地よく、自然であること”。いくら環境に良い選択としても、それが辛くて無理のあるものだとしたら続けることは難しいだろう。
実はこれまで千尋さんは、動物愛護の観点から自身の食生活も菜食主義を実践してきたそうだ。「動物のお肉をいただく」ということへの理解を自分なりに深めるため、オーストラリアでのファームステイも経験している。自分の中での疑問や葛藤と向き合いながらも、最近ではそこまでストイックに考えないようになってきたと言う。
「まずは違いを知って、歩み寄ること。そして何よりその“違い”を尊重することが大切だと、より感じるようになりました」
自分が食べないからと言って、人にも同じことを強要しない。良いことだからと言って押し付けない。人はそれぞれ違っていて、それぞれに素晴らしい。環境や自然のことを考える前にまず大事なのは「あなたが、あなたらしくある」ことだ。そのためにまずは自分自身の “心地いい”ところを知る。そして “楽しく”続ける。そしてその心地よさが自分の周りにも波及していった時、その状態をはじめて「サステナブル」と呼ぶのではないだろうか。
「やっぱり、私が旅の中で出会ったような美しい自然を、これからの子供たちにも見てほしいと思うんです。そのためにも私たち大人ひとりひとりが、自分のためだけの選択ではなく未来のための選択をしていけるようになったら、とても素敵なことですよね」
『自然と暮らす、私らしく自然に暮らす』
自分らしく生きることと、周りが幸せになることは矛盾しないということを、千尋ちゃんの笑顔が教えてくれている。
鈴木 千尋(すずき ちひろ)
福島県本宮市生まれ、在住。『SHIZEN TO KURASU』として、国内外の環境問題やサステナビリティに関する情報を発信。自身でセレクトしたエコプロダクトの委託販売も行っている。『ff_私たちの交換日記』では、主に海外情報の発信を担当。
instagram @shizen_to_kurasu
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