自分らしく在るための『ちいさな暮らしの店』のこと

コラム

今年の3月から『ちいさな暮らしの店』という小売店をはじめた。

数年前、自然の中で循環できる暮らしがしたいという思いで、空き家状態になっていた祖母の家で暮らすことを決めた。しかし引っ越したはいいものの、日々使う食品や洗剤が手に入る店が近くに無い。そのことに不便さを感じていたことが、店をはじめる一番初めのきっかけとなった。

実際に店をはじめるまでには、数年を要した。「私のように不便さを感じている人が居るんじゃないか?」と、誰かの役に立つならばという想はあったのだが、同時に「その誰かが居なかったらどうする?」という不安も湧き上がってきたからだ。

二年前に息子を出産し、今は初めての育児に試行錯誤の毎日を送っている。自分の時間がほとんどとれない生活の中、私が笑ってようと、泣いていようと、怒っていようと、そんなことは関係なしに毎日楽しく遊ぶ息子の姿を見て、なんだか「羨ましいなぁ」と感じた。必死に自分の“やりたい”を主張する小さな彼の姿を見て、誰かのためでなく、私は“自分のために”店を開きたいのかもしれないと思った。

小さな子どもと居ると、衣食住全てが子どものペースになる。自分の好きな料理もお菓子も作れない、お茶すらゆっくりと飲むことが出来ない。「自分らしく在る」ことからは程遠い暮らしになっていたことが、余計に私にそう思わせたのだろうと思う。

そんなことを思うようになってから少し経って、古物屋を営む友人から「店舗の一角で企画展(店)をやってみてはどうだろう?」という思いがけない提案を受けた。息子を見ながらの仕入れや店番は無謀じゃないかとギリギリまで悩んだが、結局最後には「やります」と返事をした。それだけ自己表現することに飢えていたのだ。
店には自分で心から良いと思った物だけを並べて、もしそれが誰かの役に立てば、それはとても素晴らしいことだと思った。

友人の店の一角を借り、企画店として『ちいさな暮らしの店』を一カ月間やらせてもらった。取り扱う商品は、伝統製法で造られた調味料や天日塩などの自然食や無添加洗剤、リサイクル雑貨など、いわゆる“自然派”にカテゴライズされるものが多い。しかしこの取り組みで私が大事にしたいのは、商品のあれこれというよりもむしろ「自分らしく在ること」だった。ここは私にとって自分を表現する場、“自分のやりたい欲”を満たしてあげる場なのだ。

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今年の春、友人の店の一角を借りて“ちいくら”を初めて出店した。

実際に一カ月間のこの実験的な取り組みの中でも、素晴らしい瞬間に立ち会うことができた。たくさんの励ましの言葉や大切なご縁もいただくことができたし、自分のためにとチャレンジしたことが来てくださった方の生活のほんの一部にでもお役に立てでできたなら、こんなに嬉しいことはない。

実は店名を決めるときにも、あれこれ頭を悩ませた。カッコ良すぎても違う、オシャレすぎても違う。ひっそりと、でも確かにある暮らしの営みを表現したくて『ちいさな暮らしの店』とした。少々長い店名だが、“ちいくら”と親しみを込めて呼んでもらえることが増えるといいなぁと思う。

これから活動を続ける中で、扱うもの、発信するスタイルなども変わってくるだろうけれど、それも含めて色んな方に楽しんでもらえたら嬉しい。
私の小さな決意から生まれた『ちいさな暮らしの店』が、どこかの誰かにとって、自分らしい生き方を見つめ直すきっかけにしてもらえたら、その時またひとつ“やって良かった”と思えるのだろう。

佐久間陽香

福島県三春町生まれ、中島村在住。『ff -私たちの交換日記』コラム担当。自然とともに身の丈に合った生活を楽しみながら、夫と息子と猫二匹とで、おばあさんの残し...

プロフィール

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