須賀川発の〝エシカル〟イベント「FUJINUMA GREEN DAYs 2025」レポート(前編)

昨年の初夏、須賀川は長沼地区方面へ向かった。
もこもこと茂る山々を目前にしながら車を走らせ、坂道を登り切ると見えるのは、藤沼湖。
新緑の美しさをあらためて私に教えてくれたのは、この藤沼湖の自然だった。この広大で美しい場所に多くの人々が集えたらと、皆で未来を語り合ったことを覚えている。
2025年5月4日、みどりの日。
〝自然との共生〟をテーマにしたアウトドア複合イベント「FUJINUMA GREEN DAYs 2025〜未来へつなぐレイクサイドフェスタ〜(以下:FGDs)」が、藤沼湖自然公園にて開催された。公園一帯を管理する「おもふるハート株式会社」を軸に、長沼地区の企業や出身のクリエイター、ゆかりのある有志が「チーム GREEN DAYs」と一丸となって作り上げた、初の試みだ。
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(UJINUMA GREEN DAYs 2025 のメインビジュアル。地元出身・在住のデザイナーを中心に制作された。
藤沼湖とその一帯を含む藤沼湖自然公園は、須賀川市長沼地区(旧長沼町)の山間部に位置している。広大な敷地内にはコテージやパークゴルフ場のほか、湖を眺望できる「藤沼温泉やまゆり荘」があり、温かい温泉と美味しい地元長沼産蕎麦で多くの人に愛されてきた。
この自然豊かな藤沼湖をのぞむ環境で、〝エコ〟〝エシカル〟〝サステナビリティ〟に特化したイベントを行おうというのが、今回のFGDsの趣旨だ。
このイベントでは、この藤沼湖自然公園一帯を「マルシェ」「ワークショップ」「アドベンチャー」の3つの会場に分け、それぞれにエシカルを意識した催し物がおこなわれた。
今回はその内容について、レポート形式でお伝えしていこうと思う。

藤沼湖自然公園の地図。湖を囲んでキャンプ場や温泉などのさまざまな施設がある(須賀川市公式HPより)

FGDsの会場マップ。※当日は強風のためレイアウトを変更となっている。(画像提供:FUJINUMA GREEN DAYs事務局)
〝アップサイクル〟や〝サステナブル〟を大切にしたマルシェ
まず訪れたのはマルシェゾーン。ここでは地元の飲食店にくわえ、須賀川市周辺地域のコーヒースタンド、パン屋、農園などのフード出店、また作家やクリエイターが数多く出店していた。会場内でもっともにぎわいのあるエリアだ。
〝自然との共生〟をテーマにしているだけあって、特にエコやサステナブルを意識した出店者が目立つ。マルシェに必要な電力の約9割を、環境に配慮した「水素カー」から供給されたことも注目のポイントだ。

マルシェでの買い物でも重宝しそうなこちらのバッグは、米袋を再利用し、柿渋で染めたアップサイクル品。

ドラム缶をリメイクした「N-CRAFT」のシェルフ・家具。(画像提供:N-CRAFT)

飯舘村の菓子工房「cocitto」のナツハゼ(ブルーベリーの仲間)を使った焼き菓子。地のものを活かし、新しい価値を生み出している。

マルシェでの電力源となったこちらの燃料電池車は、矢吹町のチームやぶきとネッツトヨタ郡山の提供。
〝手〟を動かして〝体感する〟ワークショップ
マルシェ会場を抜け、小池を横目にしながら坂道を登ると、「ふるさと体験館」と「三世代交流館」に行きつく。ここでは、日本山岳会福島支部と須賀川市の遊水会メンバーによるトレッキングやクラフト体験等、さまざまな〝自然を体感する〟ワークショップが行われていた。
今回お邪魔したのは、地元・長沼地区出身のアーティスト・木村晃子さんによる「草木染め体験」と、おなじく長沼地区在住の大岡清一さんによる、「竈門(かまど)炊き体験」だ。
まずは、木村さんによる草木染め体験。東北芸術工科大学の院生でありながら、社会問題を取り上げてアートとして表現する彼女。FGDsでは、ぶどうの剪定枝を使った「草木染め体験」をしてくれた。これは、通常なら廃棄されてしまう「剪定された枝」を再利用し、染め物の色付けに使おうというものだ。捨てられるはずだったものに新しい役割を見出し、余すところなく活かす。これが、このワークショップで体感できる〝サステナビリティ〟の醍醐味だろう。
- 木村さんがお手伝いする山形のぶどう農園で剪定されたブドウの枝。これを煮出し、染色液をつくる。
- 〝捨てられるはずだった〟剪定枝を利活用することが、このワークショップのポイント。レクチャーする木村さん。
- 使用したのは、シャインマスカットとピノ・ノワールの枝。それぞれ染まる色が絶妙に異なる。
- 煮出した染色液に布を浸け、手もみで馴染ませる。数十分の漬け込み工程を何度か繰り返す。
次に向かったのは、三世代交流館にて行われた「長沼・岩瀬の未来を考える会」の会長・大岡清一さんによる、「竈門(かまど)炊き」の実演だ。このワークショップの内容は、〝古い竈門を使って米を炊く〟というもので、昔ながらの日本の食文化の継承や火を扱うことの大切さを学ぶことを目的としている。日常の台所仕事でもIHが普及し、〝火〟そのものを見ることが少なくなった現代の生活。いっぽうで火の存在は、私たちの生活からなくすことはできないものだ。だからこそ、こういった場で火に触れ、その大切さと危うさを体で学ぶことが大事なのだろう。

きれいに保存された竈門。火加減の難しさから、現在では炊ける技術を持つ人は少ない。
- 炊き立ての米のつぶ立ちや香り、竈門の熱、煙の匂いを感じる。
- 自分たちで炊いた米を自分たちでむすび、その場で食べるのがこのワークショップの醍醐味。
この他にもこのワークショップゾーンでは、防災や須賀川の特撮文化を学べるブースや、3.11からの復興を目指して栽培されたバナナを使ったクッキング教室など、自分たちで〝手〟を動かし、学んで体感する合計8つのワークショップが開かれた。

震災からの復興を目指し、広野町で2018年から栽培が始まったバナナ「綺麗」の花の蕾。
湖畔アクティビティにアウトドアレストラン…自然を感じるコンテンツが目白押し
マルシェやワークショップ以外にも、ランバイクの体験会やキャンプファイヤーなど、FGDsには老若男女が幅広く楽しめるコンテンツが目白押しだ。
なかでも、アウトドアレストランを提供する「Food Camp®」による一日だけの湖畔レストランは、藤沼湖の自然を愛でながら地元食材を堪能できる、まさに〝五感で感じる〟食体験。今回はFGDsとのスペシャルコラボとして、日没後に野外上映会も開催され、食育、オーガニック・フードの先駆者アリス・ウォータースが日本を訪れた様子をおさめたドキュメンタリー『食べることは生きること〜アリス・ウォータースのおいしい革命〜』が上映された。
この「Food Camp®」と野外上映会「レイクサイドシネマ」に関しては、レポート後編で詳しくお伝えする。
〝過去〟から学び、これからの〝未来〟につなぐために
来場者数およそ3,000名と、新緑の季節に明るいにぎわいを見せたFGDs。しかしこの藤沼湖は、2011年3月の震災によりダムが決壊し、周辺と下流地域に甚大な被害を出したという過去をもつ。毎年3月11日近辺には、被害により亡くなった方を悼む「大震災と藤沼湖の記憶をつなぐつどい」が行われ、長沼地域内に建てられた慰霊碑の前で多くの人々が犠牲者の鎮魂を祈る。
アウトドアアクティビティに、おいしいフードやかわいい雑貨…。楽しいイベントの根底には、こういった過去を忘れず、教訓として〝未来へつなぐ〟というFGDsの想いが込められている。

震災後に湖底から見つかった「奇跡の紫陽花」が広場を囲む。
また、2005年に須賀川市と合併した長沼地区(旧長沼町)は、22年には少子高齢化に伴い「一部過疎地域」の指定を受けた。地域の人口減少や、伝統行事の継続・継承が危ぶまれる中、〝今〟を残し伝え、新たな流れを生み出すという意味でも、今回のFGDsは価値のある一歩なのだろう。訪れた人々が、長沼の自然や受け継がれてきたものの恩恵を享受し、復興や未来への歩みを感じる日。それは、たった一日の催し事かもしれないが、この〝たった一日〟が枝分かれし、生長して、新たなバトンとなってつながれていく―—。そのことを諦めずに続けていくことが、本当の〝サステナビリティ〟なのかもしれない。
「FUJINUMA GREEN DAYs」は、今年をふくめた向こう三年間の開催を予定している。今年、来場の機会を逃したという方は、ぜひ来年も藤沼湖を訪れてみてはいかがだろうか。

フィナーレを飾ったのは、地元の「(有)糸井火工」による花火。個人や企業からの協賛により、震災からの復興と鎮魂を願って打ち上げられた。
【藤沼湖自然公園】
住所:〒962-0204 福島県須賀川市江花字石倉山22
開園時間:特になし ※施設内「ふれあいランド」のみ8:30~17:00
【三世代交流館・ふるさと体験館】
場所:藤沼湖自然公園内
利用時間:
日帰り:10:00~15:00まで(宿泊客がいない場合のみ利用可能)
宿泊:16:00~翌10:00まで
※いずれも要予約
休館日:火曜日・年末年始
【藤沼温泉やまゆり荘】
住所:〒962-0204 福島県須賀川市江花字石倉山4-3
営業時間:9:00~21:00(最終受付20:00)
定休日:火曜日・年末年始
詳しくは、藤沼湖自然公園のHPをご覧ください。
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