2024年、ff(フフ)振り返り座談会。

ff 振り返り座談会2024
つなぎ手

年明けの1月。昨年の振り返りを兼ねて、ff_私たちの交換日記のつなぎ手(ライター)で座談会を開きました。福島県会津地方から岡田菜緒さん、浜通り地方から久保奈都子さん、中通りからエディター・佐藤美郷という、いわゆる「浜・中・会津」の3エリアから各1名ずつ集まっての、オンライン座談会。一年間やってみての感想や“書くこと”への想い、エシカルについて感じていることなどをざっくばらんに話しました。
普段とはちょっと違った“ffの内側”を、今回はちょっぴりお伝えします。

《座談会メンバー》


岡田菜緒:東京都北区出身、福島県西会津町在住。スパイスカレーとパフェの店『CHAMISE』店主。アーユルヴェーダ・ライフスタイル・カウンセラー。散歩と料理とアーユルヴェーダと温泉が好き。

久保奈都子:いわき市出身、現在は関東と地元の二拠点で生活中。漁業コミュニケーター/ライターとして、また、いわき市で漁業を営む“漁師のむすめ”として、水産会社広報やライティング・新規企画提案などを主軸にフリーランスとして活動中。

佐藤美郷:南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Nafsha』を開業。その他、ライター業やアーティストとの協働など、福島の魅力を伝える“ローカルエディター”として活動している。

一年“つなぎ手”をやってみて、どうだった?

2022年にウェブメディアとして歩みはじめた後、少しずつメンバーを増やしてきた「ff_ 私たちの交換日記」。2024年は、これまで3名だったつなぎ手が7名に増え、一層これまでとの違いを感じる年になりました。今回座談会に参加してくれた岡田さんと久保さんも、そのうちの一人。ffというメディアで筆をとることについて、素直な気持ちを語ってくれました。

★以下:岡田菜緒さん(なお)、久保奈都子さん(なつこ)、佐藤美郷(みさと)、「ff_私たちの交換日記」(ff)で表記。

みさと:まず二人に聞きたいのが、「一年やってみて、どうだった?」ってこと。「楽しかった!」とか「大変だった…」とか、ぜひざっくばらんに聞かせてください(笑)。

なお:私はこういったオフィシャルな媒体で何かを書くこと自体がはじめてだったので、学ぶことの多い一年でした。普段から自分のブログやSNSなどで、“書くこと”自体には抵抗のない方だったんですけど、それを「誰かに読んでもらう」という前提で書くのは、また別の話なのだなと。何というか、もうひとつ別の視点を持って、自分の書いたものを俯瞰するというか…。

なつこそれはそうですね。私も自分が好きな「漁業」に関しては伝えたい想いが強い方なのですが、そういう時にエディターの美郷さんに「こういった表現はどう?」と提案してもらうと、「なるほど、そういう言い方があるか」とハッとすることがあったりして。ffでは、これまでの自分の伝え方とはまた違った視点をもらっている気がしていますね。

みさと:うれしい!まさに二人が言ったように、「自分の好きなことを自由に」という文章と、「誰かに読んでもらう/届ける」を前提に書いた文章って、まったく異なると思うだよね。SNSがほとんど生活の一部になった今、多くの人にとってオンライン上で「書くこと」って、さほど特別ではない。だけどそれはほとんどの場合が前者であって、だからこそ自由に、勝手に書けてるところもある。一方で、それを一旦「誰かに届ける」ということを念頭に置いてみると、たちまち見え方が変わってくる。「これで伝わるかな?」「私の独りよがりじゃないかな?」ってなるんです。その点が、ffという外に開かれたウェブメディアで書くことの特徴と難しさだよね。

なつこ:あと、他では書くことのできない自分の想いを表現できる場として、ffの存在がとてもありがたかったです。私は普段、漁業関連の広報のお仕事を中心に文章を書くことも多いのですが、そういったお仕事とは別に、「久保奈都子」自身として素直に言葉を綴れるのが嬉しいなって。実際に私が伝えたいのって、“漁業”や“震災後の福島”といった大きな枠組みでの話でなく、あくまで“漁師のむすめ”として見た“いわきの浜の日常”なんです。自分の気持ちの温度感そのままに伝えられる場って、やっぱり貴重なんですよね。

なお:私も自分の書いた記事を読んだ友人から「読んだよー」ってメッセージをもらえたり、反応があったりすると、やっぱり嬉しかったですね。一方で、一番はじめのコラムで書いた通り、なにか特別な意思を持ってというよりも、「ただ暮らしたくて移住した」っていう自分なので、そんなスタンスの人間が他の人の目にどう写るんだろう…っていう不安もありました。東京生まれ・育ちの自分が、なんの所縁もない西会津町に移り住んでるのって、外の人にはどんな風に見えるのだろうと。

okada nao colimn 移住

岡田菜緒さんの第一回コラム『東京から福島へ。ただ暮らしてみたくて、移住した。』

みさと:それはまったく気にしなくていいと思う!むしろ、なおちゃんのような「肩の力の抜けた」移住者や地域に関わる人って、20代とかの若い世代を中心に増えてるんじゃないかな?それは、3.11のまっただ中を社会人として過ごした私たち30代以上の人間とは、また違った感性なのだろうと思ってる。

なつこ:そうなんですよね。「地域活性!」とか「地域のために!」って大声で鼻息荒く活動している人って、やっぱり少なくなってる印象があります。個人的にも、そっちの方がいいなと言うか、好感が持てますよね。

二人から見た“福島”って、どんな感じ?

みさと:ちょっと話は変わるのだけど、なおちゃんは東京から西会津町へのIターン、なつこちゃんはいわき市出身で今は関東との二拠点という生活をしてるよね?二人から見た“福島”って、どんな感じかな?

なお:私のまわりには移住者が多くて、フリーランスや自分で事業をしている人も多いので、よく言う「田舎ならではの閉そく感」みたいなものは感じられないですね。西会津町には「ゲストハウス ひととき」の佐々木夫妻のような移住の先輩もいて、みんなお世話になっていますよ。地域のみなさんも親切にしてくれていて、不自由を感じることも少ないですし。冬場の日照時間が短いのだけがちょっと辛いかもですが…苦笑。

なつこ:そうですね…私も地元なので、疎外感というか浮いてる感と言うのは、ほぼないです。漁師のコミュニティって難しそうと思われがちですが、小さい頃から親にくっついて市場や漁港に出入りしてたので、今でもかわいがってもらえてます。

みさと:なるほど。正直なところ、南相馬市出身で夫の地元の須賀川市にJターンしてきた私から見た福島って、ものすごく生きづらい場に映ったんだよね。少なくともいま暮らしている中通り地方では、特に女性の自己肯定感の低さが目立っていて、驚いた。仕事も子育ても家事も介護もこなしているスーパーウーマンなのに、かなり多くの人が「いやいや私なんて」というスタンスで。最近のニュースでも、福島県の女性の県外流出率が依然として全国トップクラスだという記事を見て、妙に納得してしまったんだよね。

なつこ:それで言うと、私の関わっている漁業の現場って、実はけっこう性差による“生きづらさ”って感じにくいんです。年齢や性別にかかわらず、漁場や市場ではそれぞれに役割があって、あまり上下は感じないんですよね。男性しか参加できない会合とかもあるんですけど、それも長い歴史の中で続いてきた慣習というか、別にその輪に入れなくても、ある程度女性の声も聴いてくれると思うんですよ。だから女性側も「男ばっかり(怒)!」って目くじらを立てることもないですし、ちゃんとお互いが平等に支え合って仕事をしてるって分かってるから、わざわざ言っていないというか。

なお:私のまわりでも、あんまり女性が生きづらそうにしているって印象はないですね。移住者が多いからかも…?もしかすると、ひと口に「福島」って言っても、どんなコミュニティに属しているかってことが大きいのかもしれないですね。

なつこ:ただ、私はちょうどいま出産をするのかどうかという岐路に立っていて、そのことについては悩みますね。女性である以上、妊娠や出産ってどうやったって大きなライフイベントですし、フリーランスで活動している自分にとっては、より仕事にも直結してきます。キャリアと子ども、二拠点生活、いろんなことを加味しながら、もし妊娠・出産を考えるなら、やっぱり生活の拠点は選択肢の多い関東圏になるかなと思っています。

私たちにとっての“エシカル”って、なんだろう?

みさと:最後になのだけど、今回二人といちばん話してみたかったのが、「エシカルってなんだろう?」ってこと。現状、このffというメディアを福島で伝えようと思った時に真っ先に聞かれるのが、「エシカルってなんですか?」というところで。ちまたではサステナビリティやSDGsっていう言葉はよく耳にするようになったけど、「エシカル」はそれに比べると認知度が低い印象。でもだからこそ、流行り言葉としてまだ消費されていない、自分たちで定義づけられる余地があるとも思っているんだけど…。

なお:私は東京の農業系の大学に通っていたんですけど、いま母校で一番人気のあるゼミが、エシカルに関するものだという話を聞いたことがあります。実際に私のまわりの学生や20代の子たちも「エシカル」って、大好きですし(笑)。都心部での認知度って、全然低くないと思いますよ。特に共感力の高い女性のあいだで広まっている印象があります。

なつこ:私もこのffで自分が何を書くべきかと迷った時は、サイトの『ABOUT』にあるみさとさんのメッセージを読むようにしているんです。そうすると、「ああ、そうだった」って、書くべき方向性がまた見えてくるんですよね。

ff 私たちの交換日記 ff_ourdiary

「ff_,私たちの交換日記」の軸は、「衣食住美」。福島に暮らすつなぎ手が、100年先にも残したい“ヒト・モノ・コト”を紡ぐ。(モデル:服部奈々

みさと:「衣食住」っていう暮らしの最小単位にこそ、実はいろんなことを変え得るヒントがあるっていうメッセージだよね。だからffのコンセプトは、「衣食住」とそれらを豊かにするための「美」で構成してる。もっと言うと、なんの変哲もなく見える日常でも、「どう見るか」でまったく違ってくるっていう想いも込められてるんだ。そしてffのつなぎ手には、“書くこと”を通して、そのことを感じてもらいたいなって。

なつこ:一方で、「サステナビリティ」や「SDGs」って、すでに流行語として消費されているなと、日ごろの広報の仕事を通して感じることが増えてきたのも事実ですね。そう言う意味で、“ffにとってのエシカル”っていうのを、ひとつ明確にしてもいいのかもしれない…。

みさと:それは本当にそう。だからあえてffの説明には、『福島から“私たちの”エシカルを伝える』って、かぎかっこ付きで書くようにしているんだ。もしかしたら「私たちにとっエシカルってなに?」という問いの答えはすぐには出ないかもしれないけれど、だからこそ考え続けられるものなのかもなと思うよね。だからいま言えるのは少なくとも、「やり続けることが私たちのエシカルです」ってことかな。

ff 振り返り座談会2024

当日のオンライン座談会の様子。久保奈都子(左上)、佐藤美郷(右上)、岡田菜緒(下)

- 座談会(終)-

“私たちの声”で、“私たちのエシカル”を伝える。

今回の座談会を通して、ひとつ明確になったことがある。それは、この「ff_私たちの交換日記」というウェブメディアが、少なくともこの二人のつなぎ手にとって、“自分の言葉”を紡げる場になりつつあるということだ。ffという媒体を「単なる情報発信のメディア」ではなく、一人一人のつなぎ手の“声”が聴こえるような取り組みにしたいという、当初の目的が果たせているような気がして、私としてはこれ以上に嬉しいことはない。

ネット上には言葉があふれ、SNS上には情報が渦巻いている。最近ではAIの台頭により、それっぽい・それなりのクオリティの記事が短時間で大量に生み出せるようになってきた。しかし、一方で彼女たちの書いたものを読むと、そういった「文字列」とはやはり根本的に質を異にしていることが、よく分かる。そこには“血”が通っているのだ。悩み、時にはもがきながら向き合った彼女たち自身の経験が、うそのない言葉となって表れている。だからこそ、そこには唯一無二の“声”が宿り、“彼女たちしか書けない言葉が”生まれる。

また、東日本大震災から丸14年が経とうとしている今、特に20代などの若い世代を中心に、地方との関わり方がゆるやかに変化してきていることも感じた。これまでの使命感にあふれた移住や地域活性ではなく、「心地よさ」や「やりたい」という気持ちを素直に優先した結果が単に「移住」という形だった、というケースは、今回の座談会以外でもよく聞くようになってきている。一気に燃え上がるような使命感よりも、こういった「好き」という気持ちの穏やかな灯火の方が、もしかすると長持ちするのかもしれない。そう思うと、これも一つの“持続可能な”地方との関わり方とも言える。

『福島から“私たちのエシカル”を伝える』を冠に掲げている当メディアにとって、「エシカルってなにか?」という問いは、避けては通れないものだ。現状、これといって明確な答えがないのが正直なところだが、それでもこの「悩んで、書いて、伝えて、感じる」というサイクルを重ねた先に、なにかゆるぎない未来を期待している自分がいるのも事実である。

今回の二人以外のつなぎ手の言葉も、それぞれにすばらしい。統一感のないメディアと思われるかもしれないが、彼女たちひとりひとりの“個性の効いた声”を聴ける場として、これからも楽しんでもらえたら嬉しく思う。

2025/02/15
ff_私たちの交換日記
エディター・佐藤美郷

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

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