郡山市インパクトスタートアップスタジオに参加して

去る3月8日(土)、当メディアのエディター・代表である佐藤美郷が、福島県郡山市主催のイベントに登壇して参りました。
この半年間、同市の取り組みである「インパクトスタートアップスタジオ2024(以下:ISS)」の採択者として参加し、その成果を発表する場をいただいた形です。
今回は、ISSに参加した目的とその成果について、この場を借りてご報告しようと思います。
インパクトスタートアップとは?
「インパクトスタートアップ」という言葉を耳にしたことがある方は、どれくらいいるでしょうか?私自身、この取り組みに参加するまで聴いたことがありませんでした。調べてみると、『インパクトスタートアップ協会』という一般社団法人が示している定義に行き当たりました。
「社会課題の解決」を成長のエンジンと捉え、持続可能な社会の実現を目指す インパクトスタートアップの成長と拡大のため、インパクトエコノミーの発信、学びあいの場の構築、投資環境の整備、政府・行政との協創などを目指します。
つまり、インパクトスタートアップとは「社会課題の解決」と「持続可能な成長」を両立し、社会にポジティブな影響を与えることを目的とした取り組み全般のことを指すようです。また同協会では、この定義を箇条書きにして以下の3点にまとめています。
【インパクトスタートアップとは】
- 創業の背景や企業の存在意義に「社会へポジティブなインパクト(影響)を与えたい」という意志が強く組み込まれている
- 目標とするパフォーマンスに「インパクト」に関する指標がある・作ろうとしている
- インパクトの創出に関する活動を実際に行なっている
ここでポイントとなるのは、インパクトスタートアップの評価指標が決して「金銭的価値」のみに限らないという点だと、個人的には解釈しています。
なぜISSに参加したのか?
今回、私が「ff_私たちの交換日記」代表としてISSに参加を決めたのは、このWebメディアの取り組みをどう事業化できるか、チャレンジしてみたいと思ったことが理由にあります。一般的に利益を生みにくいとされているWebメディア事業で、これまで手弁当かつ手探りで続けてきた私たちの活動が、一体どこまで利益を生み、事業として成り立たせていくことができるのか(あるいはできないのか)。ある意味、実験的な挑戦でもありました。
半年間、郡山市はじめ、事務局として伴走してくださった地元のIT企業の皆さんとこの課題に向き合い、現時点で感じていることは、「やっぱり、続けること以外に最良の答えはない」ということです。“持続可能な取り組み”にするために目指した“事業化”のはずなのに、まったく堂々巡りな答えだなと我ながら半分あきれていますが(苦笑)、一方で真剣に考えた末、改めて行き着いたこの答えに納得しているのも正直なところです。
この答えにいたる重要なポイントとして、ISSの中でのとある講座がありました。
“社会起業家”とは何か?
「インパクトスタートアップ」は知らなくとも、「社会起業家」なら耳にしたことがある、という方もいるのではないでしょうか?
私の社会起業との個人的な出合いは、2011年の東日本大震災の直後、とある書店で見つけた『社会起業家に学べ!』という今一生さんの著書(2008年/アスキー新書)でした。地元である福島県南相馬市が被災し、当時農家を営んでいた両親は避難を余儀なくされ、故郷を離れて働いていた私が「いったい自分は何をしているんだろう、何でここにいるんだろう」という、どうしようもない焦りと不安に潰されそうになっていた頃。その時に出合ったのがこの本で、はじめて私は利益第一主義ではない起業があることを知り、それが「社会起業家」と呼ばれる人たちであるということを学んだのです。
しかし一方で、これまでの既存のビジネスと社会起業の違いを明確に理解できていなかった私。なんとなく「社会にとって良いことをしている」「三方よし」の事業をまとめて“社会起業”と呼んでいたのですが、今回、ISSの講座を担当された仙台市役所職員の白川裕也氏の説明から、長年の違和感を解消することができました。
それは、これまでの一般的なビジネスが「二―ズ」を基にビジネスモデルを構築する一方で、社会起業は「社会課題」をその発端としているという点です。かみ砕いて言うと、「市場がありそうなところに入っていく」のと、「市場はまだないけど必要としている人がいそうだからつくる」という大きな違いが、この二つにはあると理解しています。「成功/儲かりそうなところ」をかぎつけて臨む起業は、もちろんそれも大変なことではありますが、「そもそも成功も利益も未知数」という社会起業のオーシャンに比べれば、はるかにやりやすいようにも見えます。
【起業家と社会起業家の違い】
既存の起業家
- マーケットのニーズ
- 儲かる・誰かがやる
- ビジネスとして成り立ちやすい
社会起業家
- マーケットが放置
- 儲からない・誰もやらない
- ビジネスとしての難易度が高い
※白川氏の講義より引用
これまでの「ニーズありき」のビジネスから見れば、社会起業はすでにそのスタートから事業化の難易度が高いのが特徴です。既存の考え方で言えば、「そんな儲からないことやってどうするの?」という問いを容易になげかけられるでしょう。しかしそれでも「やらなきゃいけない(気がする)」というのが、社会起業家と単なる利益追求型の起業家との、決定的な違いでもあります。
そして私たちは、何を目指すのか?
半年間の学びを踏まえて見つけた答えが、「私たちは変わらずに、やり続ける」ということは、先に述べた通りです。というのも、私たちメディアを説明する際に必ず伝えているのが、『福島から“私たちのエシカル”を伝える』という点。この“私たちのエシカル”とあえて強調しているところに実は想いがあって、それはつまり、「エシカルのあり方って、人それぞれ違うよね」だから「“私たちなりの”エシカルをきちんと考えていこうね」ということなのです。
SDGsや「持続可能な〇〇」という表現がもてはやされるようになってから、よりこの“自分たちなりの答えを見つける”ということの重要性を感じています。本来であれば社会を少しでもより良く、多くの人にとって暮らしやすいものにするためのスローガンだったはずの言葉が、みるみるうちに流行語となり、形骸化され、ひいては企業イメージ(利益)アップのために使われる消耗品(語)となりつつあります。
だからこそ、「本当にそれって、“エシカル(倫理的)”なんだっけ?」という問いを、私たちは発信し続けたい。そしてそれが「メディア」という立場をとる私たちの担うべき、最も重要な役割だと感じているのです。

「ff_私たちの交換日記」のメインビジュアルは、福島県の田んぼ道で撮影。自らの足で立つ“強く、しなやかに、美しい”福島の女性をイメージした(モデル:服部奈々)。
続けるためには資金も必要、大きなムーブメントにするには、多くの人の助けも要ります。しかし、そこで私たちの役割を見失ってしまっては本末転倒。「お金にならないから」「PV数が稼げないから」という“まやかしの指標”にとらわれては、“私たちのエシカル”を伝えることはできません。
相も変わらず、不器用かつゆっくりとした歩みにはなると思いますが、これからも「福島の100年後にも残したい」ことを、私たちの視点から、真摯な言葉で綴っていきたいと思っています。そしてこの小さな取り組みが、いつか誰かの手にわたり、リレーのようにつながることを願って。
以上、お粗末ではありますが、ISSを通しての学びと現在地についてのご報告とさせていただきます。
『ff_私たちの交換日記』
代表・エディター:佐藤美郷
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