私が西会津町で“アーユルヴェーダ”をする理由
西会津町での暮らしを通して、私はますます「アーユルヴェーダ」的な生き方に関心を持つようになった。
アーユルヴェーダとは、5千年前からインドで伝承されてきた古典医学だ。
インドには西洋医学の病院と並んでアーユルヴェーダの病院がある。アーユルヴェーダ医は西洋医学の知識も網羅しており、アーユルヴェーダ医になるには大学に5年半通う必要があると言う。
医学、と聞くとむずかしく感じるかもしれないが、生活の中で培われてきた「おばあちゃんの知恵」的な要素もふんだんに含んでいるのが、アーユルヴェーダだ。それでいて何人かに一人に効果があるような単なる民間療法ではなく、研究を重ね、きちんと体系化されてここまで学問として学び継がれてきた、広大無限な知恵の集積なのである。
アーユルヴェーダが教えてくれること
陽が昇ったら起きて、陽が落ちたら眠ること。
お腹が空いたら食べて、消化不良のときは食べずに休むこと。
少し汗をかき、少し疲れるくらいの運動を毎日すること。
アーユルヴェーダが教えてくれることは「自然のリズムに沿って生きる」ことである。
とてもシンプルで当たり前のことだ。
しかし、そのシンプルで易しいことが、実はいちばん難しかったりもする。
そして当たり前なことほど、誰も教えてくれなかったりする。
アーユルヴェーダでは人間は自然の一部と捉えている。
「自然のリズムに沿って生きること」の“自然”とは、外側の自然に限らない。
“自分という内なる自然”のリズムに沿って生きることも意味しているのだ。
自然のリズムに沿って生きることは、自分の身体や感覚の声に素直に生きることでもある。だからまずは自分を“観察”し、“自分を知ること”が大切だと、アーユルヴェーダでは教えられる。
自分の自然なリズムで生きることは、もともと私たち人間にとって当たり前のことだった。しかしあらゆる理由から、その“当たり前”の実践が難しいのが現代だ。
だからこそアーユルヴェーダはとてもおもしろく、有益な学問であると私は感じている。
西会津町での“自然のリズム”を感じる暮らし
西会津町は、四季の変化がはっきりとしている。
初夏には山が柔らかい緑に色づき、真夏は照りつける太陽がしっかりと暑い。栗や柿を収穫して手仕事に勤しむ秋、寒さが厳しく雪が多い冬が終わると、雪解けの音と土の匂いから春の訪れを感じることができる。田植えや秋祭りなど季節ごとの農作業や行事も盛んである。
あらゆる場面で自分の五感を通して、季節のうつろいを感じることができるのが西会津町での暮らしだ。
自然のリズムに沿って生きることは、実はどこで暮らしていてもできることだと思う。なぜなら、私たちも人間も自然の一部だからだ。その自然に沿ったリズムを全身で、五感で、目一杯に感じられる場所で暮らしていると、自分の心と体がとても喜んでいるように思う。
西会津町では、季節の手仕事や受け継がれてきた暮らしの知恵などが、文化や生き方として根付いている。こういった自然に近い暮らしの中では、アーユルヴェーダなど学ばなくとも「自然のリズムに沿って生きること」が当たり前になされている。そんなことを、ここで暮らす中で教えてもらったり体験していく中で発見していくことは、とても楽しい。
私とアーユルヴェーダとの出会い
5年ほど前からアーユルヴェーダに興味をもち、日本のスクールなどで学んでいた私は、一度現地のアーユルヴェーダを肌で感じてみたい!と南インドにアーユルヴェーダ留学に行くことを決めた。そして2024年の2月から約1ヶ月間、南インドのケララ州にあるアーユルヴェーダの大学病院にて、インド人の先生からアーユルヴェーダを学んだ。
座学や実技の授業はもちろん、自分が実際に治療を受けてみる期間もあり、自分自身の体験を通してアーユルヴェーダを学ぶ充実した1ヶ月だった。
治療中、私は身体の小さな不調のいくつかを先生に相談した。いろいろな問診をされたあと、「あなたの不調の原因は心にある気がする」と言われた。心当たりはあった。
心と身体は繋がっていて、自分というものはとても全体的な存在であるということを改めて思い知らされた。そしてアーユルヴェーダは表面にあらわれる症状ではなく、その人の全体をみて、根っこにある原因の部分を丁寧に診てくれるものなのだと、改めて感動したのだ。
アーユルヴェーダ医師のアヌ先生は、その時お世話になった私の師である。先生は、朝起きてから寝るまでアーユルヴェーダの教えに従って生きている人だ。私たちが歯磨きをしたりお風呂に入ったりするのと同じように、オイルマッサージや、オイルうがいをすることが習慣になっている。
南インドでは、こうしたアーユルヴェーダの知恵が、家庭の中で親から子へと代々受け継がれている。アーユルヴェーダは医学であると共に、暮らしに根付いた“活きた知恵”でもあるのだ。
「アーユルヴェーダ」と「日本の知恵」をかけ合わせて
東京出身で西会津町には縁もゆかりもなかった私だが、ここでの暮らしとアーユルヴェーダの学びを通してこれからやっていきたいことを見つけた。それは「アーユルヴェーダ」と「日本の昔ながらの知恵」を照らし合わせていくことだ。
アーユルヴェーダの薬は主に、土地に根付いた薬効のある植物や食べものである。アーユルヴェーダの中には「その土地で代々食べられてきた食べ物を食べましょう」という教えがある。日本でアーユルヴェーダを取り入れた生活を実践するには、食べものにしても薬草にしても、日本の土地が育んできたものが日本人には合うだろうということだ。
西会津町の野山にある野草やハーブでアーユルヴェーダ薬用オイルや薬効のあるお茶を作ったり、アーユルヴェーダ的な和食のレシピを考えたり、アーユルヴェーダの教えや理論を元に、日本の暮らしに根付いてきた「生きる知恵」をもう一度掘り起こせたらいいなと思っている。壮大なテーマかもしれないけれど、このことを西会津町での暮らしの中で、自分という器を通して、実験し、体現していきたいのだ。
また、それらの「生きる知恵」を伝えることもしていきたい。実は昨年から西会津町でアーユルヴェーダが体験できるリトリートを開催している。リトリートとは、仕事や日常生活から離れた場所で自分と向き合う時間を過ごす、自分のための癒しの旅のことだ。自然が豊かであたたかな人の繋がりを感じられる西会津町の環境の中で、アーユルヴェーダな食事やヨガ、セルフケアを取り入れた暮らしを体験をしてもらうことで、心と身体を癒し・調えることができる時間を届けていきたい。そんなことを、ここでの暮らしを通して感じている。
少しでもアーユルヴェーダに関心のある人や、自然のリズムの中での暮らしを体験してみたい人は、ぜひ西会津町を訪れてほしい。もしかすると、慌ただしい日々の中で忘れてしまっている“自分の声”を、もう一度感じられるかもしれない。
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