懐かしい風景に出会う旅 -福島県須賀川市-

guesthouse Nafsha
コラム

2024年9月14日、東京駅11時発のJR新幹線やまびこに乗り、郡山駅で下車した。
そこから在来線に乗り換え、13時ちょうどに福島県の須賀川駅に到着。シルバーウイークの3連休に一人旅に出たのは、福島県の須賀川市にある「guesthouse Nafsha」を訪れるためであった。
guesthouse Nafshaの存在を知ったのは偶然で、和菓子造りワークショップの先生のInstagramで見つけた記事に惹かれ、「いつか泊まってみたい」と憧れていた。このゲストハウスは「手紙で予約する宿」であり、大学で建築を学んだ私には、作家の作品が配置された内装の写真も魅力的であった。埼玉出身で千葉在住、東京都大手町勤務の私には縁もゆかりもない須賀川市。初めて訪れる土地への期待と、少しのざわめきを胸に感じながら、Nafshaの扉を開いた。

長沼まつり

初日の9月14日は「長沼祭り」が開催されていた。 Nafshaのオーナー夫妻とともに、祭りに繰り出す。長沼祭りは昭和60年からスタートした初秋の風物詩で、メインストリートは大勢の人で賑わっていた。地元の集会場には幼少期の町内会を思い起こさせる温かさがあり、現在住んでいる都市のコミュニティには無い懐かしさを感じ た。福島の祭りは、失った故郷の記憶を呼び覚ますノスタルジーに満ちていた。
初めて見る色鮮やかな“ねぶた”や“ねぷた”は圧巻であり、商店街は夕方から幻想的な世界へと変貌していた。長沼音頭の踊り流しや子供みこし、跳人(はねと)たちの活気ある姿が祭りを盛り上げる。地元の人々が手作りした“ねぶた”や“ねぷた”は、伝統的なモチーフから親しみのあるキャラクターまで多彩で、まさに勇壮かつ艶やかな祭りであった。
残念ながら、今年の第38回長沼まつりが「最後の長沼まつり」となるとのこと。良きタイミングでの訪問である。

「かもめ舎」と「古物屋 時雨」

2日目の9月15日は、須賀川市内をひとりで散策した。私の一番の目的はランチであり、どこで食べるかが一日の軸である。選んだのは「かもめ舎」で、無農薬・無添加ながら華やかなランチが人気と評判に、期待が膨らむ。残念ながら9月いっぱいでカフェの営業は終了予定とのこと。訪れたのは本当に良いタイミングだった。
かもめ舎のオープンの 11時30分まで、 時間をつぶすために、「須賀川市民交流センターtette」へ向かう。ここは、石本建築事務所と畝森泰行建築設計事務所が設計した施設で、図書館や子育て支援などが併設されている複合施設である。5階建てのモダンな外観と独特のデザインが魅力で、建物内を巡るのは楽しい。
11時10分にかもめ舎へ向かうと、すでに行列ができていた。予約がない私は待機することになり、開店から1時間20分ほど待ってから やっと席に通された。ランチのスパイスカレー・プレートを注文したのだが、提供された料理は絶品。無農薬・無添加の食材が使われたその味は、心温まる素晴らしいものであった。

かもめ舎 無農薬カレーランチ

「かもめ舎」のカレー・プレートランチ。野菜の色が鮮やか。

ランチ後、外に出ると雨が降り始めた。急いで徒歩で「古物屋 時雨」へ向かう 。このところ和菓子造り教室に熱心に通っており、和食器を求めてのことだった 。
時雨は店主の目利きによるセンスの良い古道具がバランス良く配置され、観ているだけでも心躍る店だった。店主は書道教室も営んでいるらしく、レジ横には書道教室の生徒の書が置いてあった。“テイクフリー”だというその書の一枚をお土産の一品として頂くこととし、「無病息災」と書かれた一枚を選んだ 。
その後は、老舗パン屋「ベーカリー玉木屋」でハード系パンやデニッシュを購入し、元・お茶屋さんをリノベーションしたビル「旧・管野園」の1階に出店している「GALATA COFFEE」でホットカフェオレを飲んだ。
地元の人は「何もない」と言っていたけれど、須賀川市は遠方からでも訪れたい、こだわりの店がひしめく魅力ある町である。

須賀川市に滞在して想うこと

東京都大手町のビルにオフィスを構えるグローバル企業で働いている私は、毎日忙しい中、帰宅後は寝るだけの日々が続いていた。そんな中、3年前に身体が悲鳴をあげ、休職を余儀なくされた。真剣に退職を考えた時期もあった。FWP(フレックスワークプレイス)*という条件付きで復職したが、以前のようには働けず、もどかしさとやるせなさを抱えていた。
そんな中で福島に旅に出た。具体的なプランはなく、ただ自分と向き合いたかった。心の余裕が無く、問題を先送りしてきたことに気づいていたが、旅を通じて自分自身を見つめ直すことができた。高層ビルに囲まれた東京ではなく、広い空の下で深く息を吸い込むことで、少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。福島の自然と祭り、そして人々との出会いが、私に新たな視点を与えてくれた旅であった。

最後に「第2の我が家」のような居心地のよい場所を提供してくれた、guesthouse Nafshaのオーナー夫妻に感謝を。作家の作品に溢れたセンスの良い宿は、静かで、ゆっくりと自分自身の生き方を見つめ直すことができた。
都会暮らしに行き詰まっている人に、須賀川市を訪れてみることをオススメする。

*適用者の事情・状況に応じて、勤務時間や就業条件などを個別に設定することができる制度。育児・介護・不妊治療をはじめ、大学院との両立など事由を問わず利用できる。

須賀川市民交流センターtete

須賀川市民交流センターteteからの眺め

 

Sho Kozutsumi

秘書・旅する食マニア。大学で建築を学ぶ。卒業後は建築業界へ就職。その後異業種へ転職し、現在はグローバル企業で秘書として働く傍ら、以前から関心のあった “食”...

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