『グランシア須賀川』支配人 高坂琴代さん

グランシア須賀川 支配人 高坂琴代さん

福島県須賀川市。宿場町として栄えた市街地の中に、ひときわ存在感のある建物がある。創業60年を超える老舗結婚式場『グランシア須賀川』だ。清潔感のあるドアを開け、広いロビーに入ると迎えてくれるのは支配人の高坂琴代さん。その笑顔と優しい声に触れるたび、私はいつも温かな安堵に包まれる。「ああ、須賀川にはグランシアがあって、ここには琴代さんがいてくれるのだ」と。

祖父の代からの“力を合わせる”を大切に

グランシア須賀川の創業は1959年。琴代さんの祖父にあたる大内健助さんが『須賀川温泉』として開業し、市民に愛される日帰り温泉として営業をはじめた。その後、当時県内ではまだ珍しかった結婚式場への可能性を見出した健助さんは、1979年に須賀川温泉を大規模改装し、須賀川市初の総合結婚式場『須賀川グランドホテル』としてリニューアルオープンする。これがグランシア須賀川の前身となった。

グランシア須賀川エントランス ファサード

グランシア須賀川のエントランス。清潔感のある白いファサードがお客様を迎える。

グランシア須賀川 エントランス 翠ヶ丘公園

グランシア須賀川の向かいにあるのは、緑豊かな翠ケ丘公園。春には一面の桜で彩られる。


琴代さんは三代目として、現在支配人という立場で経営を切り盛りしている。グランシア須賀川の特徴は、父の大内康広さんを社長、兄の健秀さんを常務として据え、親子兄妹で共に経営を担っているところだ。一見珍しいこの経営形態について、琴代さんはこう説明する。

「兄も私も子供のころから、『あなた達は一緒に会社を継ぐんだよ』と言われて育ってきたんです。なので共に経営に携わることについては、全く違和感を感じていなかったんですよね。“家族皆で力を合わせて”というが祖父の頃からの教えだったので、誰が一番とか競争だとかではなく、“一緒に頑張る”という気持ちが自然と沁みついていたのかもしれません。」

創業から50周年を迎えた2010年、より一層結婚式に力を入れるため全館リニューアルをし、『グランシア須賀川』と名称を変えて新たなスタートを切った。

「“グランドホテル”で“しあわせ”を、ということで、“グランシア”と名付けました。併せて“社員は家族です”という社訓も新たに掲げたんです。祖父が大切にしていた“皆で共に頑張る”という想いを受け継いでいきたいという、決意の表れでもありました。」

家業を守りながら、挑戦し続けたい。

子供の頃から家業を継ぐことを疑わず、小学校の卒業文集にも「将来はグランシアで働きたい」と書いていたという琴代さん。その想いは成長してからも変わらず、高校も「実務に役立つから」という理由で地元の情報系の学校に進学。卒業後は当たり前のようにグランシアに入社し、同時に地元を良く知るためにと須賀川観光PRの「牡丹クルー」としても一年間活動した。

18歳からキャリアをスタートさせてからは、衣装部門、プランナー、フロント、司会など様々な現場仕事を文字通り体当たりで学んでいった。幼い頃から手伝いをしていたとは言え、改めて仕事として向き合うとなると、初めてのことや慣れないことばかり。先輩の仕事を目で覚え、盗みながらひとつずつ覚えていったと言う。そして入社から5年目の2011年3月、東日本大震災が起こる。

グランシア須賀川 支配人 高坂琴代さん

「当時は誰もが大変だったと思いますが、私たち結婚式業界も大きな打撃を受けました。もちろん、結婚式を挙げたいという需要も激減です。でも、これを機に思い切って別の式場で研修をしてみようということになったんです。大分県のとある式場に受け入れていただき、働かせていただきました。」

震災という想定外のきっかけではあったが、初めての県外での暮らし、家業以外で働くという経験から、琴代さんは〝新しいことに挑戦すること〟の楽しみを覚えたと言う。

「大分での研修をきっかけに、それまで見よう見まねでしていた司会業についても、しっかりと学び直してみようと思ったんです。仕事をしながら東京の専門スクールに通って、卒業後も都内で司会のお仕事をお受けしながら、実地での経験を積んでいきました。」

現在、グランシア須賀川の司会進行は琴代さんがメインで担当し、お客様の大切な門出に色を添えている。

スタッフもお客様も“信頼関係”で成り立っている

今回お話を伺いながら、琴代さんの言葉には端々に“思いやり”があるということを、ひしひしと感じていた。彼女の柔らかな声色と話し口がなお一層、そう感じさせているのかもしない。支配人という立場上、時には経営面での厳しい判断を迫られることもあるだろう。しかしその厳しさを凌ぐほどの愛情が、琴代さんの態度や言葉からは溢れているのだ。

現在グランシア須賀川では、30名程の従業員が働いている。パート社員、正社員、料理人、サービス担当…様々な立場のスタッフがいる中で彼女が大切にしていることは、「その人の良さを発揮してもらうこと」だとそうだ。

「私たちは、まず“やりたいことに挑戦してみる”という姿勢を大事にしています。例えば料理人が『自分はカレーが得意なんです』と言えば、『じゃあ今度のビアガーデンで出してみよう!』とか、デザインセンスのあるスタッフがいたら『チラシ、つくってみない?』と提案したり。そこに『担当以外のことはやらない・させない』なんて制限はありませんし、それぞれの“やる気”や“得意”を発揮するための環境づくりは、大切にしていますね。」

グランシア須賀川 支配人 高坂琴代さん チャペルにて

白と緑を基調にしたチャペルにて。結婚式について語るときの彼女の笑顔は、まぶしいくらい印象的だ。


「それぞれの強みを発揮する」という表現は、昨今の企業PRでもよく聞くようになった。個性・多様性・自己実現…。一見すると耳障りの良いこれらの言葉だが、その裏には他人との差別化を計らなければ生き残れないという、現代社会の焦りのようなものも見え隠れする。しかし琴代さんの言葉には、そういったネガティブさが一切感じられない。それはなぜかを考えたとき、そこにやはり、相手を本当に“思いやる気持ち”があるからではないだろうかと思う。

「働くことって、“信頼関係”の上に成り立っていると思うんです。そのためには雇用側も働く側も『決まった仕事だけをすればいい』というのではなく、お互いをよく見て、声をかけ合わなければいけません。そのことが“一緒に頑張ろう”という気持ちを生み、結果として信頼感のある関係性が築けるのだと思います。」

グランシア須賀川ではお客様に対して、「AかBかCの中から選んでください」という式の提案は基本的にしていない。丁寧にヒアリングをし、希望に沿ったプランをプランナーがイチから考えるのだ。それがどんな些細なリクエストであっても受け止め、ベストを尽くすからこそ、他にはない“お二人ならではの結婚式”ができるのだと、琴代さんは考えている。

共にある存在、共に成長する会社でありたい

現在二児の母として、子育てをしながら働いている琴代さん。母になってより一層、助け合うことの大切さを感じているそうだ。出産・産休に入るスタッフも増えてくる中で、会社としても従業員用のキッズスペースを設けるなど、柔軟な仕組みづくりで対応している。

「女性は特に、ライフステージの変化によって働き方も変わってきますよね。でも今は結婚をしたから家庭に入るとか、出産したからキャリアを諦めるとかいう時代ではありません。子育て経験者は気配りのできる方も多いですし、若いスタッフのフレッシュさとはまた違った魅力があります。会社としてはそういったスタッフ皆が働きやすい環境を、どんどんつくっていきたいと思っているんです。」

グランシア須賀川 支配人 高坂琴代さん

強烈なビジョンがある企業や経営者には訴求力がある。しかし一方で、働くスタッフ皆が一緒に考え、挑戦をしながらつくっていく会社があってもいいのではと思う。環境がめまぐるしく変わる現代だからこそ、誰か一人のカリスマ性に支えられるよりも、ひとりひとりが個性を発揮し、力を合わせながら、柔軟に舵を切れる組織の方が時代に合っているのかもしれない。

最後に「琴代さんの夢は何ですか?」と質問すると、少し悩みながらこう語った。

「夢…なんだろう。やっぱり私個人で“こうなりたい!”ということって、あまりないのかもしれません。ただ、この須賀川でこうやって商売をさせていただいていることへの感謝と、会社で働いてくれているスタッフへの感謝、そういった気持ちが一番なんですよね。支えてくれている皆様への恩返しの気持ちが、原動力なのかもしれません。」

そう語る彼女の顔はやはり慈愛に満ちて優しく、温かく、そして美しかった。

 

 

 

 

 

高坂 琴代(たかさか ことよ)
グランシア須賀川 支配人。祖父が創業した総合結婚式場の三代目として、家族とともに経営に携わる一方で、結婚式の現場でプランナーや司会としても働く。高校卒業後、家業に入りながら須賀川観光PR『牡丹クルー』としても活動。須賀川の顔として一年間の広報活動に勤しんだ。仕事と両立しながら、東京の専門学校にて司会業について学び、卒業後はイベントMCやウエディングの司会として経験を積む。現在二児の母。働く母や女性の視点から、よりよいグランシア須賀川のあり方を常に模索し、挑戦し続けている。

▶グランシア須賀川公式HPはこちら
▶高坂琴代さんのInstagramはこちら

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

プロフィール

関連記事

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA