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地方で「母」になるための見えざる壁(後編)――産後サポートの現状と、親の「孤立」を埋めるもの

産後ケア 福島 地方
コラム

前編では、福島で「母になる」までの4年間の不妊治療や、無痛分娩のリアルについてお話ししました。
2025年春、待ち焦がれた我が子を抱いてホッとしたのも束の間。本当の「見えざる壁」は、そこから始まったのです。
産んだ瞬間から始まるノンストップの育児。愛おしさと同じくらい押し寄せる、張り詰めた孤独。そして、いざ誰かに頼ろうとしたときに気づく、行政サポートの頼りなさ。
後編となる今回は、退院直後の「母子同室」での戸惑いや、帰宅後に直面した産後ケアの使いづらさについて、私の等身大のモヤモヤを交えてお話しします。

産後の「母子同室」の話

次の「見えざる壁3」ですが、これは見えざるというか単純に私のリサーチ不足で、余計に「大変だ!聞いてない!」と感じてしまったことです。産後の入院期間、特に「母子同室」についてです。
私は少し難しいお産になってしまったため、産後2日目からの同室生活がスタートしました。妊婦健診で「混合育児」を希望していたこともあり、助産師さんたちの「4泊5日の入院期間中に軌道に乗せよう」という焦りと熱意をバチバチに感じながら、はじめての育児にのぞむことになりました。

しかし、です。育児とは母乳をあげることだけではありません。おむつ替え、寝かしつけ、だっこ、着替え……そのすべてが初めての経験。自分の体も心もズタボロななか、24時間ノンストップ分刻みのスパルタ生活が始まりました。
病院という環境にいて、ごはんも出してもらえる。それなのに、ずっとずっと孤独なのです。「最後にこの子の命を守れるのは私だけだ」という心持ちに、どうしてもなってしまう。

もちろん助産師さんにヘルプを出すこともできますが、その度に自分がふがいないような、なんとも言えないモヤモヤとした気分になってしまいます。加えて、助産師さんによって「今夜はゆっくり休みな」という方と、「母子同室が基本ですけど?」という方のスタンスのばらつきが激しく、これが産後のメンタルにはかなりこたえました。

都会には、子は新生児室で預かり、授乳時のみ母が対応する「母子別室」を選べる病院もあると聞きます。「母子同室」も「母子別室」も選べるなかで、自分が〝選んだ〟という実感を持てること。それこそが、母体の回復期には最も大切なのではないでしょうか。

産後サポートの話

退院後の自宅育児も「未知の大変さ」の連続でした。特に苦労した母乳は、子がまさかの全力拒否。入院中の特訓も虚しく、ほぼ完全ミルクでの育児となりました。
次に感じた地方医療の「見えざる壁」は、「産後サポート」についてです。
私の暮らす地方では行政によるサポートがメインですが、母子手帳交付時に渡される冊子を見ると、サービスごとに主催や管轄がバラバラなことに気づきます。例えば以下のような感じ。

  • ファミリー・サポート・センター(管轄・申請:社会福祉協議会)
  • 産後ケア事業(管轄:市役所/予約:各病院・助産院)
  • 産前・産後家庭支援ヘルパー派遣事業(管轄:市役所/申請:社会福祉協議会)

この他にも充実したサービスがあるものの、一覧で確認できるツールがなく、大半がチラシ配布です。特にこういった行政サポートは「もっとも必要としている」、ひっ迫した状態の方に、より届きやすいものであってほしいと個人的には思います。見つけにくい情報や複雑な利用手順のハードルを越えてようやく利用できる、というサービスは本当に役立つものなのなのか…制度設計に疑問が残ります。
次からは、私が実際に利用した2つのサービスについてレビューをしていきます。

ファミリー・サポート・センター

「ファミリー・サポート・センター(ファミサポ)」は、地域の中で「子育ての援助を受けたい人」と「援助を行いたい人」が会員となり、有償で子どもを預かり合う、地域密着型の相互援助活動です。一方で私が利用した際には、その登録方法に手間と時間がかかり、決して使い勝手のいいサービスとは言えませんでした。登録手順は以下の通りです。

  1. 登録のために社会福祉協議会の窓口へ足を運び対面説明
  2. 別日に子連れで提供会員の自宅へ出向いて環境を確認
  3. 実際の利用開始
  4. 支払はサポート会員に当日現金手渡しが基本

私がファミサポを利用したのは、子が生後4か月のとき。登録のために車で窓口へ行き、オンラインで済むような説明を受け、別日に会員宅を訪ねてようやく利用開始。料金は平日1時間600円で、3時間で合計1800円。
後に知ったのですが、地域の保育園の一時預かりが1日2000円〜2500円程度なので、時間単価で見るとファミサポはかなり割高です。総合的に見て、かなりコスパが悪い…ということで、利用したのはこの1回きりとなりました。

誤解のないように追記しますが、引き受けてくださったサポート会員さんは本当に素晴らしい方でした。課題はあくまでアナログな制度設計。なんとか使いやすいものになれば、もっと救われる人がいるだろうなと思います。

産後ケア事業

私の暮らす地域では、産後の行政サポートとして「産後ケア事業」というものがあります。
文字通り、産後の母子のケアを対象としたサービスで、産後ケアを提供している医療施設(産科のある病院や助産院)での宿泊や日帰り滞在をすることができます。滞在中は食事の提供をしてもらえたり、母乳指導や育児に関する悩みを聞いてもらえることができるというのが特長。
しかしこの地域の主流として、多くの施設が「母子同室」でのケアとなり、日ごろの育児で疲れ果てるから少しでも寝たい・ひとりの時間が欲しい、というニーズには基本的には応えていません。

私が利用した施設は2か所。ひとつは個人が運営する助産院で、もう一つが民間の産科クリニックでした。いずれも一泊2日の宿泊利用でしたが、助産院では主に母乳指導、クリニックではリフレッシュを目的にそれぞれ利用しました。
ここからが再び私の感じたモヤモヤなのですが(笑)、ファミリーサポートと同様、産後ケアの申請方法も手間がかかる部分がありました。

利用までには以下の手順で予約・申請が必要となります。

  1. まずは利用したい施設へ仮予約(空き状況、利用条件の確認など)
  2. 仮予約ができたら、市役所へ本申請(電話もしくは窓口)
  3. 市役所から決定通知書が届いて、確定(当日は通知書をもって施設利用)

ここで「見えない壁」となっているのが、一番はじめの「利用したい施設への仮予約」です。仮予約は完全に施設側に一任されているので、予約方法が施設ごとに異なります。
やはり主流はまだまだ電話予約なのですが、これが本当につながらない。クリニックなどで受付担当がいればまだマシですが、個人で運営されている助産院などでは永遠に電話がつながらず、折り返しをもらっても私も子供の寝かしつけや授乳中などで出れず…という負のサイクルが生じ、不毛なやり取りをしたこともありました。

今回利用にいたった助産院とクリニックは、その点の煩わしさがなかったという点でユーザーフレンドリーだと言えます。特に助産院の方はLINEによる予約を導入していて、子供から離れられないことの多い産後数ヵ月の身にとっては、かなりありがたかった。施設側の導入コストも低く、現時点での最適解として機能しているように感じます。

また、利用してみて「母子同室はほぼ休まらない」ということを、あらためて実感しました。

これは産科クリニックで念を押されたのですが、「うちは母子同室なので、基本的にはお部屋とお食事を提供するだけになります。母親のリフレッシュ目的であれば、他の施設をおすすめします」とのこと。まさにその通りでした。
私は納得したうえでの利用端だったので、その点に不満はありませんでしたが、結果として利用前後の疲労感は、プラマイ若干マイナス程度(笑)。目的にもよりますが、母体を休めるには柔軟に対応してくれる個人の助産院などが相性がいい、というのは本当のようです。

産後ケア 福島 地方

クリニックの産後ケアの食事はこんな感じ。食事が豪華で有名な産院でした。

産後ケア 福島 地方

滞在部屋はこんな感じ。ベッドガードをつけてもらって、子と一緒に寝るスタイル。

産後サポートの〝見えざる壁〟

これまでの「ファミリー・サポート・センター」や「産後ケア」の利用体験の話から見える課題は、以下のようになります。

<産後サポートの見えざる壁>

    • サポートの数は多いが、一覧化しにくくて、結局なにがあるか分からない
      • 産後の忙しさではチラシを見てる余裕はない
    • サポートの提供側も様々かつ申請方法も異なるので、面倒くさい
      • 電話予約は産後にはハードルが高い
    • 結果として「あるのに使えない」制度が多すぎる
      • もったいない!

制度は存在するが、ひっ迫した当事者には届いていない

この歪み(ひずみ)の背景には、制度を作る側と、実際に24時間ノンストップの育児に追われる母親との間にある、決定的な解像度のズレがあります。必要なのは、立派なパンフレットや複雑な申請窓口ではなく、限界を迎える前にそっと差し伸べられる「ワンタップの繋がり」や、母体の回復を最優先に考えた「本当に休める仕組み」ではないでしょうか。

家庭内で子育てができた時代とは異なり、核家族が主流になったいま、かつてのように地域全体で自然と子どもを育んでいた形には戻れません。だからこそ私たちは、地域の皆で支え合う、新しいやり方での育児をつくっていく必要があります。

例えば、私の暮らす福島県ではまだ馴染みが薄いものの、全国レベルでは、家事や簡単な育児サポートで母親の心身に寄り添う「産後ドゥーラ」という存在が広がりつつあります。「母子同室で結局休まらない」「育児指導はあっても心のケアまでは手が回らない」という、地域の福祉が抱える“ニーズの穴”を埋めるのには、まさに最適解だと感じます。

さらに、こうした役割はプロの専門職だけに限りません。高齢者の活躍の場という意味では、シルバー人材センターでの登録者を、この「日常の産後ケア」に上手く接続することも検討できそうです。地域に眠る豊かな人生経験や、かつて子育てを経験した方々の温かな手が、孤立しがちな家庭を救うセーフティーネットになる。これからの地方において、それはお互いの生きがいを生むという、あたたかな循環を生むのではないでしょうか。

医療と家庭のすき間に落ちてしまいがちな、(母)親たちの孤独。 彼らがふっと息をつき、一人の人間に戻れる時間を、私たちはこの地域の中でどう作っていけるか。

制度のあり方、あるいは「地域のつながりの中で子どもを育てる」という挑戦について、皆さまの暮らす地域での事例や、実際に利用して感じた課題などがあれば、ぜひコメント欄でその声を聞かせてください。

文・写真:エディター・佐藤美郷

佐藤美郷

南相馬市出身、須賀川市在住。『ff_私たちの交換日記』エディター。3.11を機に「衣食住美」の大切さに気づき、2020年に夫と『guesthouse Naf...

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